2013年5月18日土曜日

リウマチ治療の理想と現実

関節リウマチ治療で、生物学的製剤 - 通称バイオと呼ぶことが多いのですが、登場してから10年でバイオを使用することはかなり浸透してきて、今や(バイオを使用した上で)治ることを期待する病気となりました。

しかし、色々な制約があって、簡単にバイオを使用できないところもあり、偉い先生方が推奨するような理想的な治療がすべての患者さんに実践できているわけではありません。

それは、ほとんど医学的な問題ではなく、社会的なところに原因があり、まさに理想と現実のギャップと呼ぶにふさわしい悩みと言えると思います。

まず、日本の皆保険制度のもとでは、厚労省の決定した治療方針(実際には診療報酬という形で決められています)に沿ったことしかできません。原則として、バイオを関節リウマチと診断したあと最初に選択する薬剤として使用できません。


バイオは、あくまで内服薬の効果が無い場合に使用してよいという決まりになっているわけです。確かに、内服薬でも十分にコントロールがつく患者さんは大勢いらっしゃいます。しかし、病気が治るという期待は低いと言わざるをえません。

こういう決めは、医療費(薬剤費)の抑制の目的であることは明かです。高齢化社会になり、医療費はどんどん増大している中で、一定の理解はされるものではあります。しかし近年、国際的にT2T(ティーツーティ)と呼ばれる治療の指針が強く推奨されていますが、ここではほぼバイオの使用を前提にしての治癒にもっていく戦略が唱えられているのです。

最近は、一部のバイオは最初から使用してもいいということも出てきてはいるのですが、一番問題なのは薬の値段です。いくつもあるバイオは、一ヶ月に3割負担の方で、\35,000~\40,000程度の薬剤費負担が発生します。

少なめに使用したり、工夫次第では\20,000程度に抑えることはできますが、内服薬だけの治療をしている場合とはゼロが一つ増えてしまうのです。

やみくもにバイオを使用すると、医療費は莫大なものになることは容易に想像できます。当然、患者さん自身の負担もばかにはできません。しかし、治癒 - 実際には再発の可能性を残している寛解状態にできれば、一生続くかもしれない治療を中止できて、生涯の負担は患者さんも国も少なくできるかもしれません。

これは、学会も、自分たちのような実地医療を行う医者も率先して行うべき課題といえそうです。一定のルールを確立して、診断が確定した時点で早期からのバイオの使用により一定期間内に寛解に持って行き治療を中止できるようになることが重要と言えそうです。

初めて内服で使用できるバイオとして期待されている新薬(ゼルヤンツ)については、薬の値段は最も高い方の注射製剤とほぼ同じ設定になりました。厚労省の認可は出てはいる物の、まだまだ実際の使用のルール作りが間に合っておらず、実質的な使用開始は白紙状態のようです。

しかし、こういう薬がもっと増えてきて価格も下がり、風邪薬のように一般医も気楽に使用できる環境が整うことが患者さんのためにもいいのかもしれませんが、まだまだそうなるにはうまくいっても10年以上はかかるでしょう。実際には、現在の状況を考えると、さらに専門性が高くなる一方の方が可能性が高いような気がします。

いずれにしても、せっかくの強力なリウマチ制圧の強力な武器を、もう少し自由に使用できる環境が望まれていることは確かです。