ドヴォルザーク(1841-1904)はチェコを代表する作曲家であるとこは、今さら言うまでもありません。ドボルザークと簡単に書く場合もあり、英語表記だと Dvorak ですが、正しくは Dvořák。これを発音に近い形でカタカナ表記すると、ドヴォジャークとなる。ヨーロッパの人の名前は難しい。
音楽史の中では、 後期ロマン派、チェコの国民学派の代表という位置づけ。最も有名なのは「新世界(交響曲第9番)」でしょう。日本の普通の音楽教育を受けていれば、たぶん小学生でも知っているクラシックの一つ。
国民学派と呼ばれる音楽は、口で説明するのはなかなか難しいのですが、一聴して古典派のものとは雰囲気が違うものです。もともとクラシック音楽と呼ばれるものは、主としてキリスト教文化から派生したものであり、大多数の日本人からは異質な部分が少なくない。
特にロシアから東欧諸国出身の国民楽派作曲家の場合、いわゆるボヘミアの大地に根付いた伝統的な楽想が特徴と説明されます。ロシアのグリンカ、ムソルグスキー、ボロディン、チェコのドヴォルザーク、スメタナ、ヤナーチェク、マルティヌー、ハンガリーのコダーイ、バルトーク、ポーランドのシマノフスキーなどの名前が思い浮かびます。
ボヘミアの大地の音楽というのは、日本で言うと歌謡曲のような感じとでも言いましょうか。非常にとっつきやすい、親しみの持てるメロディ。新世界の第2楽章から取られた唱歌「家路」は、まさにその象徴かもしれません。
堀内敬三の作詞で歌われる、
遠き山に 日は落ちて 星は空を ちりばめぬ
きょうのわざを なし終えて 心軽く 安らえば
風は涼し この夕べ いざや 楽しき まどいせん まどいせん
自分の卒業した小学校では、午後5時になると下校の音楽として毎日流されていました。この哀愁に満ちた素朴なメロディは、もともと日本の曲と言われても何の不思議がないくらいで、家路とか故郷という言葉を連想するのにふさわしいやさしさにあふれています。
ヨーロッパからアメリカに渡って、目覚しい文化的な発展をとげる新しい国を「新世界」とした一方で、故郷の豊かな自然の香りを対比させたかった意図が入っているのだろうと言われています。
CDでは名盤と呼ばれるものは数多くあるようですが、さすがにお膝元のチェコ出身の演奏家によるものがベストでしょう。ラファエル・クーベリック指揮のベルリンフィルの交響曲全集は、代表的なものと言えます。
しかし、せっかく国民学派というくらいですから、すべてチェコでかためた演奏というなら、ヴァーツラフ・ノイマン指揮のチェコフィルによるものを決定盤としたい。このコンビは50年以上の歴史があり、カラヤン+ベルリンフィルみたいな感じで、完成されたコンビネーションは素晴らしい。
交響曲全集は3回作られているのですが、1968~1973年に録音された最初の全集が内容的に最も評価が高いのではないてしょぅか。音質的にも優秀で、古くても何ら問題はありません。
チェコのレコード会社のSupraphonは、この数年膨大な録音の中からチェコの演奏家による優秀な演奏をピックアップして、ドヴォルザークの全集にしようというボックスが登場しています。間違いのない演奏がそろった秀逸な企画であり、大変素晴らしい。
交響曲ボックスに選ばれたのが、ノイマンの最初の全集の音源で、交響詩や演奏会用序曲もあわせて収録されています。直接見たことが無いにもかかわらず、自然とボヘミアの大地というものが目の前に広がってくるような雄大な清涼感とでも言うような雰囲気が詰め込まれた名演を堪能してください。