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2014年6月8日日曜日
聖霊降臨節第一日
時は1725年頃のドイツ南部、ライプツィヒの聖トーマス教会で、5月の日曜日の朝。教会の音楽関係をとりしきるトーマスカントルの職にあったJ.S.バッハは、朝から大忙し。
何しろ、今日は聖霊降臨祭の最初の祝日の日曜日で、教会のイベントとしてはクリスマス、イースターに次ぐ大きな記念日。昇天祭が終わるや、もう大慌てで今日のためのカンタータを作曲しまた。
今年のカンタータは「人もしわれを愛せば、わが言を守らん(BWV74)」で、実は去年も同じ「人もしわれを愛せば、わが言を守らん(BWV59)」だったんです。だからって、手を抜いたわけじゃありません。ちゃんと、パワーアップした新曲として作った自信作です。
昔にも、ワイマールで働いていたときに一つ作ったのが、「歌よ、響け(BWV172)」でしたが、まだまだ未熟でしたが、かなり派手目に元気一杯。
この曲は、今年の復活祭でオラトリオとして復活させちゃいました。けっこうバッハのお気に入り。なかなか捨てがたいところ。
実は、20年後にも久々の新曲として、この日のために「おお永遠の火、おお愛の源よ(BWV34)」を作ることになるのでした。
とにかく、家族総出で出来上がった新曲を写譜して演奏者に渡して、何度かリハーサルを行い・・・
昨日、何とか形になったところで今日の本番を迎えたわけです。まぁ、毎週のことですから、さすがにバッハも慣れたもので、むしろ日々の充実した忙しさが生活の糧になっている。
早朝から、それぞれの奏者が楽器を持って集まってきました。教会のいつものステージに上がって、それぞれが音を出して調律をしている。彼らは、ライブツィヒ市から任命された「プロ」ですから、毎週の新しい譜面を見ても慌てることはない。
ただし、今日はいつもよりも大きな礼拝が行われますから、集まった人々の数も多くて、音量的に10人程度では負けてしまいそうです。そこで、こういうときのために、ボランティアのセミプロの奏者が数人補強されて加わっているのです。
慣れていない彼らに的確な演奏をしてもらうのは、けっこう大変な心労で、バッハも朝から彼らの音を入念にチェックしないといけない。譜面の手書きのスラーの位置が微妙に違っていたりして、演奏するほうもどんだけ音を伸ばすのか聞いてくる。
妻のアンナ・マクダレーナの「ご飯ですよ」の声も耳に入らないくらい、教会と音楽学校宿舎と自宅の間をバッハは行ったり来たり。そろそろ、皆が集まってくる頃なので、最後まで気が抜けないわけです。
歌い手は、聖トーマス教会音楽学校の生徒たち。使える学生から、A軍、B軍、マイナーという具合に分けてある。ライプツィヒには聖トーマス教会だけでなく、もう一つ聖ニコライ教会という大きな教会があって、バッハはこの2つの教会で交互にカンタータを演奏しないといけない。
時には、同日に両方で演奏なんてこともあったので、生徒たちも慣れたものですが、それでも大きなイベントの時には緊張はいつもより大きい。夜明け前に起床して、声をおちつかせておかないといけないので、特に1軍の面々は大変です。
ソプラノ、アルト、テノール、バスという声域によって4つのグループに分けられていますが、教会の壇上に上ると、それぞれのパートで3~4人くらいが並べば一杯。大きなイベントではA軍とB軍総出になって、もう満員電車、いや満員馬車状態。
早朝からのリハーサルでしたが、さすがにこの時期寒さはだいぶ遠のいたので、皆の発声も悪くは無い。楽団の方も、あらかたバッハの流儀を飲み込めているので、特に心配はなさそうです。
後は本番を残すのみ。教会の門が開くまで、ちょっと時間があるので、好物のコーヒーを飲んで心を鎮めるトーマスカントルのヨハン・セバスチャン・バッハでありました。