というタイトルなんですが、いきなり違う話で恐縮ですけど、「STAP細胞はない」ということで結論が出ましたね。なんとも残念なことです。残念なのは、STAP細胞が無い事ではなく、こういた問題が起こったことであり、他の研究にもいろいろな影響がでるかもしれないということ。
さて、昨日はいつものリウマチの勉強会。自分たちのホームグラウンドの田園都市リウマチフォーラムでした。昨夜の勉強は「iPS細胞を用いた再生医療」について。
講演をしていだいたのは、肝臓のもとになる臓器再生の成果を出した谷口秀樹教授でした。再生医療は今後のリウマチ診療に必ず関わってくる技術として、われわれリウマチ医も大きな期待を寄せています。
世話人の中で是非話をきいてみたいとお願いしたものの、正直言って、内容のハードルが高く戦々恐々としていました・・・が、谷口先生の話は、大変分かりやすく、何となくわかったような気にさせてくれました。
生物は細胞分裂の過程で、いろいろな組織に分化して体を形成していくわけですが、そのスタート地点にある大元の細胞が幹細胞(Stem Cell)と呼ばれます。細胞自身が正確に自分を複製する力をもち、かつさまざまな分化により多機能性も持つという特徴があります。
iPS細胞は、人工的に誘導された分化多機能性と自己複製能力をあわせもつ幹細胞(Induced pulripotent stem cell)のこと。京都大学の山中教授が、すでに分化した体細胞の中から、遺伝子操作技術を用いて人工的に誘導して作成したもの。
もちろん、世界のいろいろな研究者による再現性もあり、日本では10年以上まえから、臨床応用に向けての国家プロジェクトとして基礎研究がスタートしています。谷口先生からも、この分野については日本が世界の中で何歩もリードしているという話がありました。
関節リウマチの根本的な解決は、おそらく遺伝子そのものの治療が必要でしょうが、出てきた病気による事象としては、滑膜炎による関節の変化が重要。骨は今でも骨移植などの技術があり、比較的再建しやすい。
ところが、軟骨の再生はほぼお手上げ状態。整形外科分野の基礎研究は、ほぼ軟骨と神経の再生に尽きるといえるくらい、数々の研究が行われてきましたが、何十年とたっていますが今だに不可能です。口から健康食品を摂取したくらいで、何とかなるはずもない。
谷口先生の研究では、iPS細胞を用いて軟骨の元となる細胞を作り、それを体内で育てて器管として使えるようにするというもの。もちろん動物実験の段階ですが、ある程度の成果を出していて、いろいろな軟骨の傷んだ状態への臨床応用の可能性が出てきています。
自分たちのような臨床家からすると、最も多い軟骨の問題は加齢による軟骨の磨耗・消失です。年を取って、膝の痛みや背骨の痛みに悩むのはほぼすべての人間に起こってくる問題。
これは、人間が二足歩行になった代償みたいなもので、人類史上必然と言えるかもしれません。膝の関節内の軟骨と背骨の間の椎間板軟骨が再生できれば、多くの人の老後がずいぶんと楽になる。
リウマチ患者さんでは、滑膜炎により、関節内の軟骨が消失し、骨も虫食いのようになっていきます。欠損した骨は骨移植して、表面の軟骨はiPS細胞を用いた技術で再生できれば、薬の治療で抑えられなかった部分について、機能的な障害を防ぐ有力な治療法になるかもしれません。
現実に治療法が確立され、普通に使われるようになるまでには、まだまだ10年くらいはかかるかもしれませんが、少なくとも実現不可能な夢ではなく、努力しだいで可能になる課題であることがわかりました。
そのためには、次の世代の研究者の方々にも大きな期待をしたいところ。功をあせらず、地道にしっかりとした研究を積み上げて行ってもらいたいものです。そうすれば、もしかしたら自分には間に合うかも・・・?