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2018年12月7日金曜日

Full Metal Jacket (1987)

「シャイニング」でヒットを飛ばしたスタンリー・キューブリック監督の7年ぶりの作品。

毎回、違ったシチュエーションの映画を作って来たキューブリックですが、何とベトナム戦争を題材にしたというので、当時も驚いた記憶があります。

キューブリックは飛行機に搭乗するのが嫌いで、その頃イギリスに住んでいたので、何とイギリスの中ですべての撮影をしています。廃工場を利用して戦場を再現し、たくさんの木を植えこんでベトナムを作り上げました。

ところが、映画の製作に取り掛かった後から始まった別のプロジェクトに先を越されてしまいます。それがオリバー・ストーン監督の「プラトーン(1986)」で、ベトナム戦争でのアメリカの混迷を描いてアカデミー賞を取りました。

この結果、キューブリック作品は否が応にも比較される事態になり、またキューブリックだからという普通よりも過大な期待を寄せられた結果、興業的には必ずしも成功とは言えませんでした。

前半は、海兵隊に入隊した若者が、過酷な訓練を受け殺人マシーンとして出来上がっていく過程を淡々と描いていきます。最後に、劣等生が卒業の日に鬼教官を射殺して自殺します。

後半は、一転してベトナムに配属された新兵の彼らが、廃屋で見えない狙撃兵によって、一人、また一人と倒されていきます。やっと狙撃兵を発見すると、それはゲリラの少女でした。少女を射殺し、仲間の死を乗り越えて、なおも続くのが戦争なんだという・・・・

少なくとも勝ち負けのストーリーを中心とする単なるアクション戦争映画とは違いますし、戦争の渦中で病んでいく「プラトーン」や「デア・ハンター」のように戦争の非を前面に出しているわけでもありません。

それにしても、新兵の訓練シーンは印象的。登場する鬼教官を演じたのは退役軍人のリー・アーメイで、今年の4月に亡くなりました。実はこの時は演技指導スタッフで参加したのですが、あまりに素晴らしいということでそのまま出演したらしい。

俗語の嵐で、英語のセリフはまったく何を言っているのかわかりませんが、字幕で見ていてもおそらく「罵詈雑言」とはまさにこれだというくらいすさまじい。徹底的に新兵の人格を否定して、人を殺すことにためらいを感じられないように仕向けていくのかと。

おそらく、キューブリックはこの映画で、単に「戦争とはこういうものだ」ということを見せようと思ったのかもしれません。戦場以前でも、人を殺す前に人を壊していくというのも「戦争の一部」ということなんでしょうね。