1988年の「Bird」は、天才アルトサックス奏者、バードと呼ばれたチャーリー・パーカーを題材にした監督作品で話題になりました。
チャーリー・パーカー(1920-1955)は、ダンス音楽として人気が定着し始めたジャズを、アドリブを中心とした演奏を聴くための音楽に立て直したビ・バップ・ムーブメントの中心人物として、ジャズ史上屈指の巨人として記憶されています。
天才的なひらめきのアドリブで、今に至るも人々を魅了し続けている反面、悪しき伝統ともいえる麻薬漬けの生活から身を滅ぼし、35年間という短い生涯で散っていたことでが残念。もっとも、だからこそ伝説となり、サックス奏者以外の多くのジャズ演奏家に影響を及ぼしたとも云えます。
マイルス・デイビス以前のジャズを聴く上では、パーカーは絶対に外せない偉人であり、同時に名前を挙げておくと、リズム楽器だったギターをアドリブが可能な独奏楽器に昇華させたチャーリー・クリスチャン、パーカーと伴にビ・バップを推し進めたトランペット奏者のディジー・ガレスピーらも忘れてはいけない存在だと思います。
パーカーの代表作はどれか? というと、これが意外と難しい。
まだ、SPレコードが主流の時代で、録音された曲がどれも短く、まとめた「アルバム」という感覚が希薄です。また、おびただしい数の別テイクが存在していて、どれがどれやらよくわからない。
とりあえず、有名なのはDialレコードとSavoyレコードに吹き込んだ音源で、薬でヘロヘロなものが多い晩年のVerveレコードも加えるとだいたい網羅できることになっている。CDのBOXセットとして、それなりにまとめられており、大変安い物もありますので、とにかくどれでもいいので手に取って耳で聞いてみて欲しいところです。
その中で、ライブ録音は、一度の演奏機会にまとまった演奏が記録されていて「アルバム」らしくなりますが、あえて選ぶと後期に属する1953年のトロントでの音楽祭における演奏はビ・バップの集大成と言える「歴史的名盤」と呼ぶにふさわしい熱演が記録されています。
トロントのマッセイ・ホールに集まったのは、チャーリー・パーカー(as)、ディジー・ガレスピー(tp)、バド・パウエル(p)、チャーリー・ミンガス(b)、マックス・ローチ(ds)という、そうそうたる面子。もう。このメンバーの名前だけでも興奮するしかない。
パーカー、ガレスピーは、それぞれが絶頂期を過ぎた感はあります。特にパーカーは楽器を忘れて借り物のプラスチック製サックスを吹いたらしいのですが、ほとばしる熱気は、まさに「これがビ・バップ」と感じさせる演奏です。