いわゆるウエスト・コースト派を代表するミュージシャンの一人でもありますが、低域の野太いバリトン・サックスから、実にムーディな音を操る様は大変魅力的です。
マリガンの代表作と言ってこのアルバムをあげるのは、日本のジャズ・ファンだけかもしれません。しかも、70年代にジャズにはまっていた人だけという、かなり狭い範囲を狙い撃ちされたみたいな感じ。
何故かというと、「アスペクテ・イン・ジャズ」のテーマ曲が入っているから。
アスペクト・イン・ジャズは、開局してまだ間もないころのFM東京、毎週火曜日深夜1時から放送されていた、油井正一の軽妙な語りによる番組で、ジャズの歴史、ジャズの楽しさを知る源泉となりました。
毎週、眠い目をがまんして、番組が始まるとこのアルバムに収録されている「プレリュード・イン・Eマイナー」が流れ、「こんばんは。油井正一でございます・・・」と始まるのですから、もう耳に染みついてしまった音楽です。
実はこの曲は、原曲はショパン。前奏曲集 作品28、第4番です。確かに原曲の主旋律が出てきますが、見事にボサノバ化してジャズっている。
このアルバムはピアノレスで、ジム・ホールのギターか主たる伴奏に回っていて、全編バラード風で進行します。アルバム・ジャケットのイメージ通り、夜のとばりが降りた街の静けさが基調となっています。
アート・ファーマーのトランペット、ボブ・ブルックマイヤーのトロンボーンも含めて、管楽器担当の三人は、終始抑制された落ち着いたアドリブを展開し、「大人」を強く感じる仕上がりになっています。