2020年11月18日水曜日

007 / ユア・アイズ・オンリー (1981)

宇宙にまで出かけたボンドは、この第12作で地球上で原点回帰の落ち着いたアクション物に戻りました。長編原作のタイトルは使い尽くしたので、今回のタイトルは短編から拝借です。

原題の「For Your Eyes Only」は、「あなたの瞳のためだけに」って訳すとロマンがありますが、実際は極秘文書に使われるフレーズで、「見るだけにしとけ」ということで、見たら処分するという意味らしい。小説の邦題は「読後償却すべし」となっていて、このほかに同じ短編集に掲載された「危険」も映画で使われています。

80年代に突入した最初の007は、まさに正統派? スパイ・アクションという出来ですが、監督は編集を担当していたジョン・グレン。このあと5作続けてシリーズの監督を務めることになります。

ブレタイトル・シークエンスは、かなり思わせぶり。ボンドが「女王陛下の007」で殺された亡き妻の墓参というシーンから始まり、その帰りのヘリコプターをリモート・コントロールされて危機に陥ります。

コントロールしているのは、車いすに乗った白猫を抱いている禿げ頭で、一切顔出しはなく名前などの説明もありませんが、どう見ても宿敵ブロフェルドです。権利の争いで、「ダイヤモンドは永遠に」以降、「スペクター」、「ブロフェルド」は使えないところでの一種のセルフ・ジョーク。

テーマ・ソングは当時人気急上昇だったシーナ・イーストンが歌い、シリーズ史上初めて歌手がタイトルバックに登場するというのは驚きです。

機密機械を装備したイギリスのスパイ船が沈没し、ソビエトの依頼で何者かがイギリス側の船の捜索をしていた海洋学者を殺します。その娘が親の復讐のため立ち向かい、ボンドに協力するという流れ。

この娘が今回のボンド・ガールで、演じるのはキャロル・ブーケで、妖艶でグラマラスというより黒髪で知的・冷静な珍しいタイプです。プロ・スケーターでもあるリン=ホリー・ジョンソンは、得意のスケートも見せてくれますが、言い寄られてもボンドが子ども過ぎるとして相手にしない珍しいパターン。

いつもの常連、Qやマネーペニーは登場しますが、Mが休暇という理由で出てこない。実はMを演じてきたバーナード・リーが亡くなったためで、シリーズ・レギュラーがいなくなったことはちょっと寂しいところです。

密輸や麻薬などを商いにしている、ボンド・シリーズにしては小悪党が相手で、ただ本当の敵が誰なのかがなかなかわからないところでサスペンス色を打ち出している。そして最終決戦の巨大な敵基地というのもありません。

それでも、見終わって物足りない感じはないのは、全体のプロットが珍しく?しっかりしていて、くだらないギャグは少なく、アクション・シーン(スタントですけど)がたくさん出てくることで緊張感が持続するからなのかなと思います。

ただし、最後の最後、作戦の成功に対してお祝いを言うのが、当時のイギリス首相のそっくりさんという落ちは気が利いているのか利いていないのか・・・余計なお世話ですけどね。