ショーン・コネリーが初めてジェームス・ボンドを演じた「トクター・ノオ」から23年、三代目ボンドのロジャー・ムーアも出演7作目でついに最終作。
原作のタイトルは「From a View to a Kill」で、情景から殺戮へ、とでも訳す感じですが、実際の邦題は「美しき獲物たち」となって、誰がどうして考えたのかというところ。もっとも原作の邦題も「バラと拳銃」ですからよくわからない。
監督は引き続きジョン・グレンが担当し、ムーアの最後を飾るべく予算もふんだんに使い、久しぶりに大規模なセットを用意しました。
あと、忘れてならないのは最初からMの秘書であるマネーペニーを演じてきた、ロイス・マクスウェルも本作を最後にシリーズから退きます。おめかしをして競馬場に出かけたりして、いつもよりも華やかな演出は心憎い。
ブレタイトル・シークエンスでは、ソビエトに潜入していた003が、盗み出したICチップとともに雪山で遭難。これを回収にいくのが007です。恒例となったスキー・アクション、さらには登場したてのスノーボードでのトリッキーなスタントの末、イギリスにICチップを持ち帰ります。
そしてテーマ・ソングは、これも当時大人気だったデュラン・デュランで、これまで以上にロック色が濃いタイトルです。今回は本編はブレタイトルからの続きの話で、このICチップが核爆発でもデータが影響受けない特殊なものであり、カリフォルニアにあるゾーリン社製であることから、ボンドは社長のゾーリン(クリストファー・ウォーケン)の内偵を始めます。
ゾーリンの一の部下で、女の殺し屋でもあるメイデイを演じるのは、ポップスターとして有名だったグレース・ジョーンズ。序盤からエッフェル塔でのボンドとの対決があり、かなりインパクトが高い役です。
ゾーリンも、そしてメイデイも、実はソビエトの副腎皮質ホルモン、ステロイドによるドーピングにより、知能・肉体とも常人をはるかに上回る武器として育てられたのでした。しかし、ソビエトを裏切り自ら世界を支配する狂気に取りつかれ、大洪水をおこしてシリコンバレーを一挙に壊滅し、世界の半導体市場を独占しようと画策していたのです。
ボンド・ガールは、TVドラマ「チャーリーズ・エンジェル」で人気になったタニア・ロバーツ。ただし、初登場シーンはあまり印象的な所は無く、途中からボンドと一緒に活躍するんですが、あまり重要な役どころとは云い難い。
何にしても、それなりの興行成績を残し、ムーア・ボンドは終幕を迎えます。このあと、第4代目のボンドにはティモシー・ダルトンが決まり、「リヴィング・デイライツ(1987)」「消されたライセンス(1989)」の2作を送り出します。
この2作でイアン・フレミングのオリジナル・ボンドのネタは完全に使い切ることになり、その後に続くシリーズはフレミングの創作した007というキャラクターを用いた別物という考え方もできる。
そういう意味で、ショーン・コネリー、ジョージ・レーゼンビー、そしてロジャーロムーアの3人の007で基本的には終了でよかったのかもしれない。今の007を否定するつもりはありませんが、スパイ・アクション映画としてのシリーズは、14作までで十分と感じています。