2020年11月5日木曜日

ダーティ・ハリー (1971)

もう今更説明の必要が無いくらい有名な映画。主演をしたクリント・イーストウッドにとっては、西部劇スターからジャンルを超えたハリウッドを代表するスターに押し上げました。

そして、ベトナム戦争介入後の病めるアメリカに切り込んだ、綺麗ごとだけではすまさない「アメリカン・ニュー・シネマ」と呼ばれる映画の一端を担うことになりました。

監督はこれがイーストウッドとは4本目になるドン・シーゲル。ここでは全体のスピード感が回復し、途中の息抜き部分でもだれることなく緊張感が持続する演出が見事。

冒頭、銃口が狙うシーン。ビルの屋上プールで優雅に楽しむ美女が狙撃されますが、金目当ての無差別殺人であることがわかり戦慄します。

続いて、イーストウッド演じるサンフランシスコ市警のハリー刑事は、ランチに立ち寄った店で銀行強盗に遭遇。大型拳銃を右手に、食べかけのホットドッグを左手にいとも簡単に強盗団を射殺していくのです。このシーンで、ハリー刑事のキャラクターが一瞬にして伝わることになります。

一方、犯人の「サソリ」については、ほとんど人間性は語られることはありません。何故犯罪に手を染めたのかの説明も特にない。そのため、無差別殺人を繰り返すサソリに対して誰もが嫌悪感だけを持ち、自然と無謀なハリー刑事の側についてしまうことになるのです。

もちろん、警察側の暴力的な表現に対し批判的な見方は当然あります。そういう部分が、賞レースからこの映画を遠ざけたことは間違いない。しかし、ほぼ同時期に封切られたウイリアム・フリードキン監督の「フレンチ・コネクション」との待遇の差は今もって不思議。

「フレンチ・コネクション」はアカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞など主要8部門を制覇しました。ジーン・ハックマン演じるニューヨーク市警の「ポパイ」刑事が強引な手腕を発揮して麻薬ルートを潰していく話。

ある意味ハリーとポパイには、暴力的な捜査方法などの共通点がありますが、映画としての一番の違いは「フレンチ・コネクション」は実録物というところ。50年たった現在では、「フレンチ・コネクション」は、アカデミー賞の記録として残ってはいますがほとんど顧みられることはないことがすべてを語っているかもしれません。

イーストウッドはシーゲルの指導の元、一部のシーンの監督を実際に行っており、同年に公開された自らの第1回監督作品「恐怖のメロディ」とともに、シーゲルの映画作法をしっかりと継承していくことになりました。