2020年11月25日水曜日

激突! (1971)

スティーヴン・スピルバーグは、19才で大学で映画を学び始めました。22才で短編映画「アンブリン」を作りました。

「アンブリン」は、台詞の無い25分程度のもので、ネットで見ることができます。偶然知り合ったヒッチハイクをする男女が、一緒に旅をする話で、これがユニバーサル社の目に留まり、1971年、25才で人気があったテレビのドラマ「刑事コロンボ」の一話を監督してデヴューしました。

続いて監督したのが、この「激突!」で、元々はテレビ用の70分程度の単発ドラマです。これが大好評で、業界内で名前が知られるところとなり、90分に拡大して劇場映画としてあらためて公開される運びとなりました。

セールスマンのデーヴィッドは、自動車で仕事に向かう途中で、大型のタンクローリーを抜き去ります。ところが、このタンクローリーは、追いかけてきてデーヴィッドの車をギリギリで追い抜いたり、前をふさいだりするのでした。

時には先に行けと合図をするので追い抜くと、対向車と衝突しそうになります。道路沿いのカフェに逃げ込みますが、気がつくといつの間にかタンクローリーが店の前に停まっている。客の中に運転手いると考えて、一人一人を吟味していくシーンは、まさに黒澤明の「野良犬(1949)」です。

タンクローリーは、しだいにむき出しの牙で襲い掛かってきますが、警察に電話しているデーヴィッドを電話ボックスごと轢き倒そうとしたり、線路まちで後ろから押し出そうとしたり、攻撃は完全に殺意を露わにしてどんどんエスカレートしていくのです。

このあたりは、ヒッチコックの「鳥(1963)」を連想させ、その襲い方は毎回変化があり、次はどうなるのかというサスペンスをうまく作り上げていく手腕はなかなかのものです。

この物語には原作が有りますが、映画では原作と違って何故執拗な攻撃をされるのかと一切触れずに、また相手の運転手は最後まで顔出しがない。デーヴッドを演じるのは、「刑事マクロード」で人気だったデニス・ウィーバー。ほとんどデーヴィッド一人の視点から物語が進むことで、観客も得体のしれない恐怖を一緒に体験していくことになります。

そこで気がつくのは、このタンクローリーをサメに変えて、さらに恐怖を倍加させたのが監督3作目になる「ジョーズ」であることは明らかです。

何かおかしいという感じから、次第に恐怖が加速していき、遂には対決するしかないと開き直る主人公の心理的な変化を見事に描いた若きスピルバーグの天才がすでに垣間見れる作品になっています。

スピルバーグは翌1972年に、再びテレビ映画である「恐怖の館(Somthing Evil)」を監督しています。小説「エクソシスト」(後に映画化)の人気にヒントを得て作られたホラー物で、悪魔が棲む家に引っ越してきた家族が恐怖を体験する話。

現在メディアは販売されていませんが、日本語字幕付きでネットで見ることができます(良い?時代です)。低予算のテレビですから、特殊撮影はほぼ皆無。カメラワークと音楽を工夫して、主演の女優さんの頑張りでそれなりに見れるものに作り上げました。

さらに1973年には「死を呼ぶスキャンダル(Savage)」というテレビ映画を監督しています(これもネットで視聴可能)。