007シリーズ第10作目で、1977年の映画界は「スター・ウォーズ」、「未知との遭遇」というSFの名作となった映画がひしめく中で、007シリーズとしては過去最高の興行収入を得ました。前2作でパッとしなかった、ムーア・ボンドが開眼した作品として記憶されます。
本家007映画を作っているのはイオン・プロダクションという会社で、原作者イアン・フレミングから映画化権を得ていたハリー・サルツマンと資金協力をして共同制作者になったアルバート・ブロッコリが立ち上げたもの。
前作までは制作は共同名義になっていましたが、「女王陛下の007」あたりから二人の主導権争いが始まり、ロジャー・ムーアの起用に反対していたサルツマンはブロッコリと決裂し、本作以降はブロッコリの単独制作になります。
イアン・フレミングの原作からはタイトルだけ拝借して、内容はまったくのオリジナルストーリーです。監督は「二度死ぬ」以来のルイス・ギルバートで、ギャグ路線はおさえてスピード感が増したスパイ・アクションとして完成させました。
プレタイトル・シークエンスでは、ソビエトのスパイとボンドが、スキーでアルプスの雪山をチェイスします。途中でストックに隠した銃で相手を撃退したボンドは、絶壁から大ジャンプ。落ちていく途中でイギリスの国旗の柄のパラシュートが開くというところは、シリーズ屈指のスタントであり、落としどころにもセンスがあった素晴らしい。
今回の悪人は大企業を牛耳るストロンバーグ(クルト・ユルゲンス)で、イギリスとソビエト連邦の原子力潜水艦を拿捕し、搭載していた核ミサイルで世界の主要都市を壊滅させ、海中都市から世界を支配することを企みます。
イギリスからジェームス・ボンド、そしてソビエトからは女性でトリプルXと呼ばれるアマソワというトップ・クラスのエージェントが調査に派遣されます。二人は当初は情報を奪い合う関係で、エジプトの名所を巡る駆け引きは楽しめます。
そして、両国が共同作戦を取ることになりますが、実はボンドがアルプスで倒した敵はアマソワの恋人だったことがわかり、二人の間には緊張感が持続することになります。二人が乗り込んだアメリカの原潜も、敵のタンカーに飲み込まれるように拿捕され、アマソワはストロンバーグに捕らえられ海洋基地に連行されてしまいました。
ボンドは隙をみて捕らえられていた原潜乗組員を開放し、英米ソの三カ国協同でタンカーを破壊、すでに出航していた2隻の原潜のミサイルを相討ちさせて危機を救います。アメリカ原潜で脱出した彼らの元に国連から海洋基地破壊指令が届きますが、ボンドはアマソワを救出するため単身で乗り込み・・・当然、ハッピーエンドを迎えるわけです。
ボンド・ガールはもちろんアマソワで、演じたのは現リンゴ・スターの奥さんであるバーバラ・バック。前半は腕利きのスパイとして描かれていますが、捕まった後はなすすべもなくボンドに助けられるというのだけは、ちょっと物足りない感じ。
サブ・キャラとして注目だったのは、敵の用心棒で登場するジョーズ。巨大な体を持ち味にして人気だったリチャード・キールが、鋼鉄の歯で何でもかみ砕き、台詞は無いのですがコメディ要素を含ませている。最後でも水没している基地から脱出し泳いでいくところはユニークで、当然のように自作でもボンドを狙って来ます。
これまで積極的ではないにしろ犯罪者の後ろにはソビエト連邦が控えている設定でしたが、ソビエト諜報部のゴゴール将軍が初登場し、イギリスのMと並んでいたりするシーンは、まさに東西冷戦の雪解け、「デタント」の象徴でした(79年のソビエトのアフガニスタン侵攻で崩れますが)。