現代アメリカの映画監督の中でも、こだわりの映画作りで異彩を放つ存在であるウェス・アンダーソンのメジャー・デヴュー作。
1969年生まれテキサス出身のウェス・アンダーソンは、大学時代にオーウェン・ウィルソンと出会い映画を作り始めました。二人で脚本を書いた1994年の「Bottle Rocket」は、13分の短編白黒映画。
この短編はオーウェンの弟であるルーク・ウィルソンが主役のアンソニー、オーウェン自身が腐れ縁の仲良しディグナン、また仲間に引き込まれるボブをロバート・マスグレーヴが演じています。ディグナンは泥棒で一稼ぎしようとアンソニーに持ちかけ、まずはアンソニーの家で盗みの練習をした後、拳銃を購入して書店に強盗に入ろうと計画するという話。
実はこの映画は邦題だとわかりにくいのですが、原題は同じ「Bottle Rocket」で、短編版が「愛と追憶の日々(1983)」のジェームス・L・ブルックスに認められリメイクしたもの。劇場版にするにあたってカラー作品になり、色々と肉付けして90分に拡大しました。
まず最初に、アンソニーは心労(理由はわかりにくい)から施設にしばらく入所していたことになっている。施設から出てきて、年の離れた妹とのやり取りも加わって、アンソニーの人物像がやや堀下げられています。
一方の主役、ディグナンについてはあまり深追いしていない。しばらくは、短編とほぼ同じような構図での展開があり、書店強盗まで進行します。この後は劇場版だけの話になりますが、アンソニー、ディグナム、ボブの三人はしばらく身を隠そうということで、モーテルに到着。
アンソニーは、パラグアイから来た英語がまだうまく使えない、モーテルのベッド・メイクの仕事をしているイネスに一目ぼれ。ここで初めて邦題の意味がわかりました。ボブは、ふだんバカにしてくる兄が警察に捕まったという知らせに、一人車でモーテルを去ってしまう。
結局、ディグナムとアンソニーは喧嘩別れして、アンソニーはボブの家の用事をいろいろしながら堅気の生活に戻ることに。でもしばらくしてディグナムが再びアンソニーのところに登場し、今度は大きな工場の金庫を狙う仕事に誘うのです。結局、どじな失敗で、ディグナムは皆を先に逃がし、自分だけが警察に捕まり刑務所暮らしになってしまう、という話。
ずっとパートナーとしても付き合っていくことになるウィルソン兄弟にとっても、俳優デヴュー作であり、彼らの最初の仕事として意義深い。スビルバーグの「ターミナル(2004)」で印象的な空港清掃員を演じたクマール・パラーナも、一味の一人として登場し、亡くなるまでウェス映画の常連になりました。
基本的には、素人泥棒がいろいろとしくじるというコメディで、アンソニーとイネスのロマンスだけは大真面目。またアンソニーと妹、ボブと兄という家族の信頼回復の要素が含まれている感じです。
もっとも、コメディと言っても直接ギャグを飛ばすストレートな笑いではなく、登場人物の思考・行動が普通じゃない所から来るかみ合わない歯車みたいなもの。何ともおおらな連中という言い方も可能です。
内容的には、短編で描いた泥棒見習い、延長した分のモーテルでのハッピー・ライフと別れ、そして大きな仕事で失敗という3つのパートがバラバラな印象。同じ登場人物による3つの短編映画を見た感じで、元の短編にこだわりすぎたかもしれません。
ウェス・アンダーソンの映画は、一目で彼の作品だとわかるくらい構図、色彩、撮影法、出演者などに特徴がある。さすがに、このデヴュー作では、後年のウェス・アンダーソンらしさを感じれるところは無いことは無いのですが、まだまだ習作の域を出ない感じ。とりあえず、デヴュー作としての意義は認めましょう。