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2021年3月24日水曜日

ファンタスティック Mr.FOX (2009)

ウェス・アンダーソン監督り新境地を開いた傑作は、何と全編がストップ・モーション・アニメーションの手法で作られました。

ストップモーション・アニメーションは、静止している物体を1コマ毎にわずかに動かしながら撮影する(コマ撮り)ことで、まるで動いているように見える技術です。通常の映画なら30コマ程度必要なので、例えば60分の動画を作るのに、30コマ×60秒×60分で10万8千回の撮影が必要で、かなりの忍耐と労力を要することは想像に難くない。

古くはレリー・ハリーハウゼンによる怪物が登場する映画、「シンバッド七回目の航海(1958)」や「アルゴ探検隊の大冒険(1963)」などが思い出されます。最近は、ほとんどCGに取って代わられてしまいましが、他の方法では代替えできない味があります。

アンダーソンは、「ライフ・アクアティック」でほとんどの水中生物を、ヘンリー・セリックの助けでこの技法を用いて撮影しました。おそらく、この時にセリックから手ほどきを受けて、今回の映画に生かすことを思いついたのでしょう。

それぞれの登場人物(動物)は10~30cm程度の大きさの精巧な人形で、これを一コマずつ微妙に動かすことは大変です(実際は24コマ/秒)。アンダーソン映画の特徴的なシークエンスはここでも取り入れられているのですが、カット割りすれば簡単なところを、平行移動で表現するのは特に難易度が高い。

原作は、児童文学作家のロアルド・ダールによる「父さんギツネバンザイ」で、ダールの映画化されたほかの作品としては「チャーリーとチョコレート工場」、「BFG」、「魔女がいっぱい」などがありますし、「007は二度死ぬ」や「チキチキ・バンバン」の映画脚本も書いています。

まず、声優陣がすごい。主役のMr.フォックスはジョージ・クルーニー、Mrs.フォックスがメリル・ストリープ。顔出しの無いアニメですから、日本語吹き替えで観てもいいんですが、この二人の声が実にはまっている。息子のアッシュは、天才マックスのジェイソン・シュワルツマン、アナグマの弁護士はビル・マーレー、敵のネズミはウィレム・デフォー、学校のコーチはオーウェン・ウィルソンというアンダーソン一座の面々です。

彼らはスタジオでマイクの前に勢ぞろいして録音するのではなく、実際に屋外だったりどこかの家の居間で、キャラクターの動きにできるだけ近い演技をしながら台詞を言い、その時に発生する音も同時に収録するという方法が取られていることも特徴的です。

フォックスは結婚と子供の誕生を機に、泥棒家業から足を洗い、新聞記者として生活しています。しかし、野生動物の本能から、人間のビーン、ホギス、ハンスの食糧倉庫に盗みに入り、怒った彼らと全面戦争になる。

そこに夫婦の愛、父親のように強くなれない息子の悩み、仲間との信頼など、定番中の定番ともいえるテーマが嫌味なく収まっているのは、やはり良質な原作によるところが大きい。ですが、短いエピソードの集まった原作を、雰囲気を継承しつつ一つの流れにつなげていったのは、脚本を書いたアンダーソンとノア・バームバック(「ライフ・アクアティック」の脚本)の手柄でしょう。

これらの経験は、次のストップ・モーション・アニメーション制作にもつながるのです。