前作「ファンタスティック・Mr.フォックス」は、秋のイメージで全体に黄色味を帯びた色調をベースにしていましたが、今回は場面によってけっこう多くの色使いを見せてくれます。
基本的には犬たちの台詞は英語で、人間の台詞は日本語。もともと犬が日本語を話すことは無いので、吹き替え版よりも字幕版でみることをお勧めしたい。
今回も、アンダーソン作品常連の方々が声の出演で多数登場しています。中心となる犬たちの声は、リーヴ・シュレイバー、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、ボブ・バラバン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラムが担当。雌犬の声はスカーレット・ヨハンソン、アンジェリカ・ヒューストン、サポートで登場する犬は F・マーリー・エイブラハム、ティルダ・スウィントンらです。
人間の役を担当しているのは、コーユー・ランキン、野村訓市、高山明、伊藤晃、オノ・ヨーコ(!)、村上虹郎、野田洋次郎、渡辺謙、夏木マリといった面々。交換留学生でアメリカから来た女の子は、グレタ・ガーウィグで、彼女だけは英語(たまに片言の日本語あり)。
まずは、プロローグ。昔々、犬が大嫌いな時の君主小林は、犬を絶滅させようとしましたが、少年侍が小林を討ち取り犬たちを救った・・・そこで一句、「人間に 我背を向ける 窓の霜」。なんだかわかったようなわかんないような俳句です。
20年後の日本、メガ崎市という場所が舞台になります。その暴君の子孫にあたる小林市長は、犬を駆逐するため、密かに犬の病原体をバラまき、おかしくなった犬たちをことごとく沖合のごみの島に捨てていました。
その最初の一頭になったのがスポッツで、両親が亡くなったため市長の養子になったアタリ少年の護衛犬です。アタリは何とかスポッツを助けようと、一人果敢に犬ヶ島に渡り、島に捨てられた犬たちに助けられながらスポッツを探すことになります。
そして、いろいろこーなって、あーなって、昔の言い伝えを再現するようなことになって、アタリ少年が詠む俳句が「何故ゆえに 人類の共 春に散る花」です。これもまた、わかったようでわかんない。
とにかく、男の子が大切にしている友情とか、勇気とか、情熱とか、いろいろなものをアンダーソン流の笑いを混ぜながら表現しています。対象が犬であることで、かえって恥ずかしい感じもなくストレートに描けているのではないでしょうか。
一見、犬派 vs 猫派のような内容ではありますが、そこにはほとんど焦点をあてなかったことで、人間を含む動物全体に対して訴える普遍的な内容になったように思います。
登場する日本趣味は、日本人からすると大袈裟な感じがしないでもないのですが、和太鼓演奏、銭湯っぽい風呂、大相撲、ヤンキーに女の子、握り寿司作りとか、映画として違和感が出るほどのものではなく、むしろ楽しめるものになっています。
これまでの作品を全部見てみると、これほどまでに映像に対するこだわりがある監督というのは珍しい。一目でこの映画の監督を言い当てられるというのは、すごいことです。普通なら似たような雰囲気で、登場する俳優も同じなので飽きられてしまいそうですが、一つ一つの作品が確実に新しい何かを感じさせてくれます。
あえてランキングをつけてみると、「グランド・ホテル・ブダペスト」、「ダージリン急行」、「ファンタスティック・Mr.フォックス」あたりをベスト3にしておきますが、習作的な初期の数本を除いて、どれも甲乙つけがたい作品ばかりです。今後もアンダーソン監督の映画は注目する価値があります。
アンダーソン監督の最新作は「The French Dispatch」で、コロナの影響で遅れていましたが、今年の夏の公開が決定したようです。相変わらずの面々が繰り広げるスタイリッシュ・コメディに期待大です。