年末年始診療 12月29日~1月5日は休診します

年内は12月28日(土)まで、年始は1月6日(月)から通常診療を行います

2021年3月23日火曜日

ダージリン急行 (2007)

ウェス・アンダーソンの5作目の監督作品。これまでの10年間の作品で、少しずつその特徴を積み重ねてきましたが、ここでそのすべてが融合した映画が完成したようです。

冒頭、アンダーソン一座のメンバーであるビル・マーレイがビジネスマンとして登場。彼はインドのどこかで、タクシーに乗って駅へ急いでいる。到着したら、列車が発車したばかりで、マーレイは駆け出して何とか乗り込もうとするのですが、彼の足では追いつけない。基本的にマーレイの出番はおしまい。何て贅沢な役者の使い方でしょうか。

走るマーレイの横を抜いて、列車に乗り込めた男がいます。いきなりのスローモーションを駆使しての横への平行移動のシーンとなり、ここまでの数分間でアンダーソン・ワールドがすでに全開という感じ。

彼が乗り込んだ列車が「ダージリン急行」で、彼の名前はピーター。演じているのは、「戦場のピアニスト」でアカデミー主演男優賞を受賞しているエイドリアン・ブロディ。後ろの雑多な二等客車から少しずつ前に移っていき、特等のコンパートメントの一部屋に入ると、そこにいたのは弟のジャックで、天才マックスを演じたジェイソン。シュワルツマンが演じます。彼はこの映画の脚本にも参加しています。

さらに登場するのが、お馴染みオーウェン・ウィルソンが演じる長男のフランシス。彼が、このインドの旅を計画して、父親の葬儀以後疎遠になっていた兄弟を集めたのです。フランシスは、この「心の旅」を通じて再び兄弟の絆を取り戻したいと説明します。

彼らは食堂車に行って、それぞれの悩みを打ち明けあいます。フランシスは、この直前にバイク事故で顔中傷だらけで、頭に包帯を巻いたまま。ピーターは、もうじき子供が生まれるというのに妻との離婚を考えている。ジャックは元カノのことで悩んでいたりします。

ここもあえて同席する彼らとは無関係のインド人を加えることで、対称性を意識した絵作りをしてくるところはうれしい。この最後までセリフのの無いインド人を演じるのは、これもお馴染みとなったクマール・パラーナ。

フランシスは長男としてリーダーシップをとろうとしますが、どの組み合わせでも二人になると、もう一人を悪く言うという、兄弟間の信頼関係が無くなっていることがよくわかる。ジャックは特等を世話する係のリタに言い寄ったり、停車駅で毒蛇を買い込んだり、ついには喧嘩をしてスパイス・スプレーをバラまいて列車から強制的に降ろされてしまいます。

フランシスは、旅の本当の目的が、父親の葬儀に来なかった奥地の修道院にいる母親に会いに行くためのものだと話し、彼らは荒れ地のような田舎を歩いていく羽目になりました。途中で、川で溺れた少年たちを助けるのですが、一人だけは死んでしまいます。遺体を抱いて村に行くと、彼らも葬式に参列することになります。

父親の葬儀のことを思い出し、一つの気持ちにまとまっていたことを思い出した三人は、母親のいる修道院に到着しました。母親は、これもアンダーソン一座のアンジェリカ・ヒューストン。母親は、過去は終わったことと言い、言葉を使わず自分を出すように言います。

夜になって、列車の回想シーンが登場し、ジャックの元カノが一瞬登場しますが、これが何とナタリー・ポートマンという贅沢さ。母親は翌朝姿を消してしまいました。三人は再び、列車に乗り込みます。走り出した列車に飛び乗る際に、持っていたたくさんの荷物は放り出してしまいます。「オー・シャンゼリゼ」の歌が聞こえ、エンドロールが流れます。

ストーリーを書き出してみると、どう見てもコメディではなく、アンダーソンのおそらくテーマである家族再生の話。今回は天才的な常識を逸脱した人物は登場しませんが、三人の兄弟の考え方の違い、あるいはインドの異文化とのミスマッチが笑いを誘う作りには感心します。

自然に用いられているインドのカラフルな景観は、まさにアンダーソン素材として実にうまく取り入れられています。また、カメラの平行移動はさらに進化して、回転するような移動によってカットで繋ぐところも連続したシーンになっているのも面白い。

実は、この映画の前日譚として「ホテル・シュバリエ」という短編が作られており、ここではジャックと元カノのナタリー・ポートマンの逸話が描かれていて、ポートマンの見えそうで見えないお宝映像が出てきます。