香月秀之監督・脚本による人情コメディ。コロナ禍の最中の公開で苦戦したものの、評価は高く、2024年に同じキャストで続編も作られました。
母親の延命を希望しなかった父親と断絶してしまった菅野涼太(水野勝)は、勤めていたIT企業が倒産したため、一柳葬具総本店・・・つまり葬儀社に再就職しました。菅野を面倒を見ることになったのは、ベテランの桃井梓(松下由樹)です。早速、終活フェアのチラシを配ることになった菅野は、キッチンカーを営業している大原亜矢(剛力彩芽)にご両親にとチラシを渡します。
大原家は夫の真一(橋爪功)、妻の千賀子(高畑淳子)は結婚してもうじき50年。家のことは何もしないで文句ばかり言っている真一に、千賀子はいらいらを募らせる毎日。千賀子はチラシを見て終活フェアに出かけて、ずいぶんと人が亡くなることは大変な事かあると改めて認識しました。
フェアでメモリアル・ビデオの無料作成に当たった千賀子は、せっかくだからと乗り気になるのですが、真一はばかばかしいと猛反対し、説明に訪れた菅野にも人の不幸を仕事にしているとか、葬式を任せてもらいたいからの営業だなどと毒づくのです。
しかし、千賀子が脳梗塞を起こし倒れてしまいます。真一はあらためて、一人ではできないことがたくさんあることに気がつかされます。真一は一柳葬具総本店を訪れ、あらためて失礼を詫びビデオの作成を依頼するのでした。
幸い千賀子の脳梗塞は軽く、すぐに退院して家に帰ってきますが、今度は郷里の真一の兄が亡くなったという知らせが来る。亜矢は二人に金婚式をすることをすすめ、一柳葬具総本店にその段取りをお願いするのでした。
終活というテーマのようですが、実質的には熟年夫婦にあらためて絆を思い出してもらい、長いくなってきた人生の再出発を応援するような内容のストーリーです。ですから「青春」に対して、ここでは「熟春」がテーマということ。
何といっても、さすがはベテランの橋爪功がいかにも昭和のオヤジを演じているのが見所です。そうそう、こんなオヤジが普通だったと思い出しますが、これは高度成長期の日本を支えてきたからという確固たる自信があるからで、自分を含めて今の時代のオヤジには到底真似できるものではありません。
価値観は時代と共に変わるものですから、令和の時代にこんなオヤジがいたらヤバイの一言で片づけられてしまいます。でも、強がっているのは弱さの裏返しでもあるわけで、そこを表に出すことができないのが昭和のオヤジの特徴かもしれません。
父親と断絶していた菅野は、そんな大原一家に接しているうちに「許すこと」の大切さに気がつき父親に連絡を取るというのは、ベタですが気持ちの良い終わり方です。