知念実希人のミステリー小説が原作ですが、この方はれっきとした内科医。そのため、医学的な知識に裏打ちされた作品は評価が高い。監督は「屍人荘の殺人」の木村ひさしで、脚本は木村と知念が共同で執筆しています。坂口健太郎と永野芽郁のW主演ですが、特に永野にとっては今までにない役柄を演じています。
速水秀悟(坂口健太郎)は、3か月前に婚約者と車に乗っていて交通事故にあい、婚約者の兄、小堺司(大谷亮平)が非常勤で勤めていた田所病院が救急搬送を断ったため、婚約者を死なせてしまいます。速水は、小堺に頼まれ臨時で田所病院の当直を引き受けることになりました。田所病院は、夜間は看護師の東野良子(江口のり子)と佐々木香(内田理央)だけの勤務で、病棟に入院中の患者はほとんどが認知症を患う高齢者ばかりでした。
その夜、近所のコンビニにピエロのマスクをかぶった拳銃強盗が押し入ります。東野に1階に至急来るように連絡を受けた速水が、待合に行くと腹部を怪我した川崎瞳(永野芽郁)がいて、ピエロのマスクの男が拳銃を向けてきました。瞳はたまたまコンビニの前を通りかかって、飛び出してきたピエロの男に拳銃で撃たれ連れてこられたと説明します。
応急処置をしていると院長の田所三郎(高嶋政伸)が現れ、ピエロの男は速水、瞳、院長、東野、佐々木を人質に病院に立てこもるのでした。しかし、単なる金目当てではなく、ピエロの男は、院内を物色して何かを探しているのです。そして、院長たちも何かを隠していて、速水と瞳は次第に疑念が強くなっていくのでした。
速水は瞳に、田所病院と自分の因縁を話し、彼女を守り切れなかった自分を責めます。瞳も、ずっと二人きりで暮らしてきた姉が自分を犠牲にして自分のことを守ってくれて来たこと、そしてその姉を失ったことを話します。速水は、今度こそ瞳を守ってあげることを決意するのでした。
佐々木の悲鳴を聞いて駆けつけると、ナイフが刺さったままで東野が殺されていました。そして隠しエレベータを発見した速水は、エレベータに乗り込むと、病棟ではない5階の資料保管庫の奥に秘密の病室があることがわかりました。そこには鎮静剤で眠らされた少年がいて、投与されている薬などから腎臓移植を受けたことが想像されたのです。
これは勘のいいひとなら、最初から物語のプロットは想像できるかもしれません。どう見ても、ピエロ男が立てこもる理由がありませんから、別の目的で田所病院に侵入したことは明らかです。そして、院長が隠している秘密を探るためというのもわかりやすい。
また瞳の存在も、いかにも嘘っぽい金髪のウィッグを含めて、不自然そのもの。犯人が自分で撃っておいて、瞳を助けるために病院に連れ来る必要がありません。つまり、瞳もこの事件に何らかの関係があって、そこにいる必要があるということ。そう思ってみていると、前半の速水が何が病院に隠されているのか調べるところは、ややじれったいだけで間延びしている印象を持ってしまいます。
コロナ禍での公開という悪条件はありますが、それほど評判になった感じがしないのは、全体の構成にやや難点があるような気がします。原作者が脚本に入るというのも、映画的な取捨選択を迷わす原因になっているのではないかという気もします。
高嶋さんは、やっぱりいつもの役柄で、この人が出てくるとまたかという感じがします。とりあえず、坂口君のさわやか正義漢と永野芽郁の可愛いけどミステリアスな演技を楽しむことができればOKというところでしょうか。