年末年始診療 12月29日~1月5日は休診します

年内は12月28日(土)まで、年始は1月6日(月)から通常診療を行います

2024年12月10日火曜日

ロストケア (2023)

葉真中顕の小説が原作。まさに超高齢化に向かう現代の大きな問題をテーマにした社会派サスペンスです。監督は前田哲、脚本は前田哲と龍居由佳里の共同です。

ケアセンター八賀では認知症高齢者の介護を行っていました。特に斯波宗典(松山ケンイチ)は、熱心で行き届いたケアが評判でした。

ある日、利用者の老人宅で老人とセンター長の二人が死んでいるのが発見されます。当初、利用者宅の合鍵を使い窃盗目的で侵入したセンター長が、何らかの事故で死亡したものと考えられましたが、老人のそばに落ちていた注射器の謎が不明でした。

しかし、付近の防犯カメラの映像から、二人の死亡時刻の頃に斯波が映っていたのです。事件の担当となった大友秀美検事(長澤まさみ)が取り調べ、斯波はたまたま老人を心配して訪問したらセンター長が盗みを働いていたためもみ合いとなり階段から転落したと話します。

事務官の椎名(鈴鹿央士)が調べると、ケアセンター八賀の利用者の死亡率が異常に高く、しかも死亡した曜日が斯波の勤務の無い日に集中していることが発覚し、それは3年間で41名にも上るのでした。

再び大友が斯波を取り調べると、「私は42名を救ったのだ」と話し始めます。自分のやったことは「喪失の介護(ロストケア)」であり、心底介護負担に苦しむ家族を救うための救済だと自供するのです。しかし、ケアセンターの死亡者よりも1名多い数字の意味が不明のままでした。

父親の手だけで育てられた斯波の履歴を調べていくと、ケアセンターに就職する3年前、それまでの仕事を辞め脳梗塞で倒れた父親の介護をしていたことが判明します。そして父親が亡くなったことで今の仕事に就いていたのでした。

大友は斯波に「あなたが殺した最初の一人はあなの父親ですね」と尋ねます。斯波はそんな大友に、あなたのような安全地帯にいる人には理解できないことだと言い、認知症が進み寝たきりになった父親のために、仕事に行くこともできななり、生活保護も断られたことを説明するのでした。

認知症の家族を持つ家庭で、施設を頼れなければ介護保険の居宅介護を受けますが、介護保険だけで足りることは少ない。その場合、家族の負担は想像に難くありません。国のサポートはとても十分とは言えませんし、ましてや介護する側の家族に対する援助はほぼ無いといえます。

サスペンスと言っても、犯人はすぐに判明し、方法もあっさりわかることなので、このストーリーのテーマは動機しかありません。高度な介護を要する家族がいる場合、もう介護する側が限界にきている状況はある程度想像できます。安全地帯にいる者は、斯波の行為を殺人と呼び断罪しますが、家族によっては救われたと考えることもある。

そういう意味では、最初の犯人捜しの時間がもったいない。すぐに犯人は判明するので、むしろ120分弱映画の1/3が無駄と言えます。大友検事にも施設にいる認知症の母親とがいることなどを提示して、斯波の境遇と対比させる狙いはあるかもしれませんが、最初から斯波だけを主観的に描いてもよかったかもしれません。

大友に何と言われようと自分の行為を最後まで正当化する松山ケンイチの演技はさすがで、揺ぎ無い信念を感じることができます。とは言え、完全にそれを正当化しない演出のバランスは評価できるところ。長澤まさみは、30代後半に入ってきましたが、今回のような重厚な役とコメディ調の役をバランスよくこなしていて、安心してみていられます。