2024年12月13日金曜日

そして、バトンは渡された (2021)

正直に言うと、いやいやこんな家族ってありえない、というほとんどファンタジーな話だと思います。でも、登場人物が皆良い人すぎて、タイトルの意味がわかるととにかく目一杯幸せな気分になれる映画です。原作は瀬尾まいこの小説。脚本は「ビリギャル」の橋本裕志、監督は「ロストケア」、最新作「九十歳。何がめでたい」の前田哲。

父の森宮壮介(田中圭)と二人暮らしの高校三年生の森宮優子(永野芽郁)は、父親を「森宮さん」と呼んでいますが大の仲良しで、家でも外でも笑顔を絶やしません。母は黙って家を出てしまい消息不明です。卒業合唱で得意とは言えないピアノ伴奏係になってしまいますが、隣のクラスの伴奏係になった早瀬賢人(岡田健史)の、素晴らしい演奏に励まされるのでした。

母親を早くに亡くした小学生のみぃたん(稲垣来泉)は、父親の水戸秀平(大森南朋)と二人暮らし。ある日、秀平は新しいお母さんを連れてきました。彼女の名前は梨花(石原さとみ)といい、明るくて派手好きで自由奔放な女性でしたが、みぃたんのことが大好きでした。

しかし、秀平が昔からの夢だったブラジルでチョコレートを作るという話になった時に、梨花は異国暮らしを拒絶し、みぃたんも梨花を選び日本に残ります。生活は苦しくなりましたが、梨花はみぃたんのためなら何でもするのです。ある日、みぃたんがピアノを習いたいというと、梨花は家にグランドピアノがある資産家の泉ヶ原茂雄(市村正親)と再婚するのでした。

ある日、優子は街で早瀬が女性と一緒にいたことにショックを受けますが、壮介の励ましで何とか卒業式のピアノ伴奏をやり通すことができました。卒業後は独り暮らしで料理の学校に通い、有名レストランに就職できましたが、堅苦しさから町のレストランに転職します。そして、偶然に早瀬と再会し、母親の希望通り音楽大学に進学するも馴染めず退学したことを知ります。二人は一緒に料理の道に進むことで意気投合するのでした。

梨花は金持ちの暮らしに息苦しさを感じ、しばらく家を空けるようになりました。そして、ある日、また泉ヶ原とは別れて気が休まる相手と再婚すると言い出すのです。結婚式の当日、梨花は相手の男性にみぃたんを初めて紹介します。娘がいることが初耳だった男性は驚きますが、すぐに幸せが二倍になると受け入れてくれました。それが森宮壮介でした。

優子と早瀬は結婚することを決意し、「親巡り」を始めます。しかし、3人目の父である壮介は、一度決めた音楽家の道をあきらめた早瀬に優子を渡せないというのです。早瀬の母親も納得してくれません。2人目の父、泉ヶ原は祝福してくれました。そんな時、突然、梨花から小包が届きます。

中に入っていたのは、ブラジルに一人で旅立った秀平から優子への大量の手紙でした。梨花からの手紙には、優子が自分の元からいなくなるのが怖くて渡せなかった、本当に悪い母親だったと書かれていました。また、そこには1人目の父秀平が、ブラジルの事業は失敗して今では青森で家庭を持っていることが書かれていました。

壮介にも強く勧められ、優子と早瀬は青森に向かいます。秀平のところにも梨花からの小包が届いていて、中身は優子がブラジルの父宛に書いた大量の手紙でした。秀平は、梨花が自分が産んだわけではない優子を大事にできた理由を語ります。帰る時、いつでも早瀬のピアノに励まされてきた優子は、早瀬に音楽をあきらめないでとお願いしました。

そして最後に、優子の実の母のお墓に報告に行くのです。そこへ泉ヶ原から連絡を受けたという壮介が現れ、梨花が亡くなったことを知らせます。遺体と祭壇を設えた泉ヶ原の家に出向くと、泉ヶ原から好き勝手をしていた梨花の本当の姿が語られるのでした。

最初は優子とみぃたんの話が別々に進行していて、どこで結びつくのかなと思ってしまいます。そして、薄々わかってくるのですが、優子とみぃたんが同一人物であることがわかるとこのストーリーの言いたいことの大部分が一挙に理解できる仕組みになっています。

みぃたん、あるいは優子が、実の家族だけでなく、血のつながらない梨花と3人の父親にどれだけ愛されてきたか、そして彼女の存在が父親たちに自らの存在意義と生きるための活力を与えてきたかということが強く伝わってくるのです。

秀平から泉ヶ原、泉ヶ原から壮介にリレーしたバトンは、最後に壮介から早瀬に渡されてドラマは終了するわけですが、そのリレーを精一杯応援し続けた梨花という女性も、わかってみると素晴らしいキャラクターでした。これを見ると、永野芽郁と石原さとみのファンになってしまいます。

もしも、なるとしたらどの父になりたいですか? 実の父も、育て上げた父もいいんですが、もしも自分なら間ですべての事情を知りながら見守り続ける泉ヶ原の役どころがいいかなと思ってしまいました。