2024年12月29日日曜日

PARKS パークス (2017)

この作品は「井の頭恩賜公園 100年実行委員会 100年事業企画」と冒頭に示されます。井の頭公園は、東京都武蔵野市と三鷹市にかかる大きな公園で、昔から憩いの場所としてよく知られています。ちなみに「恩賜」は、平たく言えば天皇陛下がスポンサーという意味。

監督・脚本は「違国日記」の瀬田なつき。井の頭公園で有名な桜のシーンからスタートし、公園の中心に、若者たちの物語が展開されます。

吉祥寺のアパートに住む大学生の吉永純(橋本愛)は、3年生の学期末に恋人にふられ、留年通知が届く。突然、高校生の木下ハル(永野芽郁)が訪ねてきます。ハルは、亡き父、晋平(森岡龍)の元カノ、佐知子(石橋静河)が、この部屋に50年前に住んでいたらしいので消息を知りたいと言い出します。

純は、晋平と佐知子がやり取りしたラブレターに興味を持ち、進級の条件だった卒論のテーマにすることにします。タイトルは「60年代の恋文から読み解く佐知子の青春」としました。不動産屋に教えてもらい大家さんに会うと、佐知子の住所を知ることができました。

家を訪ねると孫の小田倉時生(染谷将太)から、「ばあちゃんは先月、脳梗塞で死んだよ」と教えられます。時生は佐知子の遺品からオープンリール・テープを見つけ、晋平と佐知子のデュエットが流れてきます。純は、途中で終わっている曲を完成させたら単位をもらえることになります。

3人は仲間を集めてバンドを結成し、吉祥寺フェスティバルに向けて曲を完成させようと奮闘します。ハルはしだいに心の中で、少しずつ晋平と直接対話をするようになりこの曲にこめられた想いを理解していくのでした。そして、曲が現代風に変わっていくことにハルは抵抗があるのでした。そして、純とハルは意見がぶつかり、ハルは出て行ってしまいます。

過去の恋人たちと音楽を通して、現代の若者たちが交流していく様子を、時を行ったり来たりしながら描いていくのですが、それが実に違和感なく展開していくのは脚本も担当した監督の力量でしょうか。

普通なら、見事に現代風に曲が完成して披露され喝采される・・・というエンディングを考えるところですが、この映画の面白いところは挫折するにもかかわらず、登場人物にはある種の達成感をしっかりと刻み込むというところ。

そして、フワッとやってきて、ある意味敗者になりそうだった純や時生たちに夢中になれるものを与えたハルの存在がユニーク。ハルは父親の過去を知りたいと語っていましたが、本当に実在する人物なのかもよくわからない存在で、最後も急に消えて行ってしまいます。100年目となる公園を舞台に、そのすべての時間に存在して、往来した人々のすべてを見てきたかのような、公園そのものなのかもしれません。

ストーリーは少しずつぼやけてしまうところもあり、何が何でも「伏線回収」にこだわる人(自分で考えることを辞めてしまった人)には面白くないかもしれませんが、何かを感じ取ることが好きな人、そして井の頭公園が好きな人には、とても良い映画と思える作品だと思います。