2025年4月21日月曜日

異動辞令は音楽隊! (2022)

原案、脚本、そして監督を全部手掛けたのは、「ミッドナイトスワン」の内田英治で、タイトルからしてコメディかと思ってしまいますが、内容はヒューマン・ドラマで、予想通りで裏切らない筋書きにもかかわらず、拍手したくなる良作となっています。

捜査一課の刑事、成瀬(阿部寛)は昔ながらのゴリゴリの人物で、犯人逮捕のためなら違法な事でも平気でやってしまうような、今どきのコンプライアンスのかけらもありません。バディの坂本(磯村勇斗)も、とてもついていけないと困惑するばかりの毎日です。家族は、あきれた妻には別れられ、娘の法子(見上愛)にも愛想をつかされ、認知症の母(倍賞美津子)と二人暮らし。

投書によって傍若無人の振る舞いが上の知るところとなり、成瀬には警察音楽隊への移動の辞令が下りてしまいます。音楽隊が専門職なのは隊長の沢田(酒向芳)とドラムを担当することになった成瀬だけで、他の隊員は交通課や機動隊、あるいは事務職との兼務で、音楽だけをやっていられるような呑気な者はいません。

刑事にこだわる成瀬に、トランペットの来島春子(清野菜名)は全員が上も下も無く音楽はチームプレイだと力説します。自分が捜査していたアポ電強盗事件が再び発生し、成瀬は思わず捜査会議に乱入しますが追い出され、自分の立場に向き合う決心がつくのでした。

しかし警察本部長は音楽隊は不要と考えていて、次の定期演奏会が終わったら解散させるつもりでした。新たに強盗事件が発生し、今回は初めて被害者が死亡します。亡くなったのは、いつも音楽隊の演奏を楽しみにしていたお年寄りでした。坂本の情報から、音楽隊は主犯が現れる場所でピエロに扮装して待ち受けることにするのです。

一番の見所は、阿部寛史上、最もいかつい強面から最も優しいおじさんにまで変貌していく演技の幅の広さです。最初は、昭和でもこんなに怖い刑事はいなかったんじゃないかと思わせる悪童ぶりです。人との関わり方を学ぶにつれて、ドラムが上手くなるところがなかなか良い。

警察音楽隊が必要なのか不要なのかという問題もある作品なんですが、考えて見れば自衛隊にも、消防隊にもあるわけで、いろいろなキャンペーン活動などを通して社会と組織をつなぐということも大事な仕事だということが描かれています。兼務している隊員たちの、ふだんのより警察っぽい仕事ぶりも織り込まれて、「税金の無駄使い」には当たらないことを盛り込んでいました。

順当なストーリー展開で、安心して見れる作品ですが、多少の嘘には目をつぶる必要はあります。ただし、楽器演奏は役者さんが本当に頑張って練習して実演しているらしいので、そこも見どころになっています。