2025年4月8日火曜日

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 (2023)

現代人が戦時中にタイム・スリップしたら系の映画。原作は汐見夏衛の小説で、これがデヴュー作です。原作では主役は中学生ですが、映画は女子高校生に変更され、恋愛要素が強められているようです。監督の成田洋一はCMで活躍し、映画はこれが初めて。

加納百合(福原遥)は、母(中島朋子)と二人暮らしの高校三年生で、父親は溺れたこどもを助けようとして命を落としました。父親がどんなに立派なことをしても、残された家族はずっと苦しい暮らしをしてきたことで、母と言い争いになってしまいます。

雨の中飛び出した百合は、古い洞穴のような場所で雨宿りをしているうちに寝入ってしまいました。雨は強くなり雷も鳴り出しました。そして、目が覚めると朝になっていて、外に出た百合は、野原と雑木林しかない光景を目にして呆然とします。百合は、ふらふらと歩いているうちに、ついに道端に倒れこんでしまいます。

ちょうど通りかかった軍服を着た佐久間彰(水上恒司)に助けられ、町の鶴屋食堂に連れて行かれます。一人で店を切り盛りしているツル(松坂慶子)は、百合に食事を与え、店を手伝うように言うのです。食堂は軍の指定になっていて、特攻に出撃する兵士たちが利用する店で、彰もその一人でした。

少しずつ自分の置かれた状況を理解していく百合は、ツルを手伝いながら、勤労奉仕をしている千代(出口夏希)とも仲良くなります。彰は妹に似ているからと、何かと百合を気にかけ、一面ユリの花が咲く丘を見せるのでした。百合は、国のためと特攻に志願する彰やその仲間たちと交流していくうちに、彼らがそれぞれ大事な人を守るために命を懸けていることを知ります。

町が空襲を受けて、百合は動けなくなりますが、彰が駆けつけて助けてくれました。彰は「命が一番大事だ」と言い、少しずつ気持ちが通じ合っていくのです。しかし、いよいよ彰たちにも出撃命令が下るのでした。

百合が寝入った洞穴は防空壕の跡だったわけで、そこへ雷が落ちたことがきっかけでタイムスリップ・・・夢ではなかったことは、ラストではっきりします。この作品では、タイムスリップした百合は、積極的に未来人であることは口にしません。未来を変えるような行動もしません。

自分を否定的に見ていた高校生が、特攻に出撃する人々を直接的に知ることで、生きることの大事さを認識して成長する姿を描くことが主要なテーマということ。ですから、積極的に反戦を訴えるわけではありませんが、戦争が人々の考え方を狂わせていたことだけは強く伝わってきます。

現代人がタイムスリップするということは、歴史の教科書の中だけの知識だけでは理解しきれない、戦争を疑似体験させることで、その意味を考えるきっかけを作りたいということだと思います。たしかに戦時中の人物だけでも、似たようなストーリーは作れるのですが、タイムスリップによってよりその目的は明快になっているようです。