2025年4月19日土曜日

正体 (2024)


2024年の各映画賞を総なめにした作品で、原作は染井為人の小説です。2022年に先にWOWWOWのオリジナル・ドラマとして、中田秀夫監督、亀梨和也主演で放映され好評でした。劇場版の監督は「新聞記者(2019)」で注目された藤井直人、脚本は藤井直人と小寺和久が共同であたっています。

民家で夫婦と娘の三人が惨殺される事件が発生し、現場にいた近くの高校生、18歳の鏑木慶一(横浜流星)がその場で逮捕されました。鏑木は一貫して否認しますが、裁判で死刑判決が下ります。そして3年後、鏑木は拘置所から脱走します。鏑木を逮捕・送検した又貫刑事(山田孝之)は全力で捜索しますが、なかなか行方をつかむことができません。

日雇い現場で静かに暮らしていた鏑木は、仕事の同僚の野々村がけがしたことで、上司に掛け合い治療費を出させるのです。野々村はともだちになろうぜと言って、二人は酒を酌み交わします。しかし、野々村はニュースになっていた鏑木であることに気がついてしまい、あせって警察に電話をしてしまいます。それに気がついた鏑木はその場から逃走します。

それから数か月して、出版社に「ナス」と名乗りフリーのライターとして出入りするようになった鏑木は、編集部の安藤沙耶香(吉岡里穂)から文章の上手さを褒められ信頼されるのです。ネットカフェに寝泊まりしていることを安藤に見つかり、安藤は自分のマンションにいてもいいと言うのでした。

その頃、安藤の父(田中哲司)は、痴漢を疑われ裁判でも冤罪を晴らすことができませんでした。安藤の父の事件を追っていたフリー・ジャーナリストは、偶然に安藤のマンションに出入りする男が鏑木に似ていることに気がつき警察に通報します。

又貫はマンションに踏み込みますが、安藤が邪魔したため鏑木は逃走してしまうのです。安藤は、鏑木の人柄を見て人殺しをするような人ではないと確信して、野々村に連絡を取りお互いの鏑木に対する印象を共有するのです。

さらに数か月して、諏訪の老人施設で介護士として働く桜井と名乗る青年が鏑木でした。同僚の坂井舞(山田杏奈)が、たまたまネットにあげた桜井の様子から、桜井が鏑木であることが判明してしまい、又貫らは施設に急行し包囲するのでした。

鏑木慶一は養護施設育ちで、彼を育てた養護教員は絶対に彼が犯人ではないと信じています。野々村も、あらためて思い返すと彼は親切で純粋な人間であると思う。安藤も、そして坂井も、彼と関わった人間は皆、外見はいろいろでも鏑木を信じるようになるのです。又貫は、どこかで鏑木は犯人ではないのかもという疑念を持ちつつも、一度進みだした流れに逆らうことができない自分を自覚しているのです。

映画では約2時間という制約で、鏑木に関わる人は少なくなっていて、ややあわただしい感じは否めませんが、文字や言葉ではなく映像に中で足りない部分を補完しているので物足りなさは感じません。制作者は、鏑木を信じられるかどうか見ている者を試しているのかもしれません。

横浜流星はさすがに注目度No.1の若手と言いたくなる熱演を見せてくれるのですが、ちょっとカッコ良すぎる。つまり、どう見ても悪い人ではないだろうという先入観が働いてしまうので、信じるしかないところに誘導されてしまうのがちょっと不満です。

基本的に冤罪という社会性の高い問題と、人をどう見るかという個人の印象がテーマとしてある作品だと思います。しかし、結末はその不満点に流され過ぎているようで、現実の世界は善人だけではないところを描くことも必要ではないかと思いました。