2025年4月12日土曜日

Leonard Bernstein


クラシック音楽史上、偉大な指揮者はマエストロと呼ばれ崇拝されています。自分がクラシックを聞き始めた頃は、フルトヴェングラー、クレンペラー、トスカニーニ、ワルターが四大巨頭でしたが、すでに過去の人でした。現役で活躍していたのは、何と言ってもヘルヴェルト・フォン・カラヤンとレナード・バーンスタイン、そしてカール・ベームで、やや遅れて登場したのがクラウディオ・アバドとゲオルク・ショルティだったと記憶しています。

彼らが残した録音遺産は膨大で、カラヤンなら、DGと旧EMIでほぼすべての正規録音レコードが揃いますが、その数はCDで約430枚。バーンスタインは旧CBSとDGでほぼすべてで、CDだと約CD約320枚。たぶんアバドはCD300枚で、ベームは200枚。ショルティはCD150枚くらいかと思います。

活動年数が長いカラヤンが一番多いのは当然かもしれませんが、バーンスタインもリリース頻度を考えるまったく負けていません。'60~'80は、ほぼこの二人が世界のクラシック音楽界を牽引していたと言っても過言ではありません。

もちろんもっと聞き込んでいれば、他にも多くの有名な指揮者はいたわけですが、何しろその頃は「クラシックは譜面通りに演奏するから、一人の演奏を聞けば十分」と思っていたので、基本的に有名な人だけで足りてしまっていました。

カラヤンは主としてベルン・フィルを手兵として、音楽に重厚感のある極限的な美しさを求めたと言われていますが、実はこれが自分が大オーケストラ作品を聞かなくなった一番の原因でした。悪く言えば、重たくもったいぶった演奏からは「どうだ、聞かせてやる」的な奢った印象しか持てずに、とても音楽を楽しむ雰囲気が感じられませんでした。

なので、自分にとってクラシックの最初のアイドル的な存在だったのはレナード・バーンスタインということになります。これは、レコードを買い始めた頃にソニーがCBSと契約して日本でレコード業界に進出しバーゲン価格のセットを大量に発売したので、バーンスタインを聞くハードルが低かったというのもあります。

アントルモンのピアノによる「ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番」、バーンスタイン自らのピアノが聞ける「ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー、パリのアメリカ人」は、ストレートに音楽の楽しさを十二分に伝えてくれたのです。またバーンスタインのナレーション(もちろん英語でわからなかったけど)が入っている「ピーターと狼、動物の謝肉祭」はこども心にも響く音楽でした。当然、それらのオーケストラはニューヨーク・フィルですから、ベルリンよりニューヨークが上と感じていたのは自然の成り行きと言えます。

レニーの愛称で親しまれたレナード・バーンスタインのイメージは、ユダヤ系アメリカ人。ブルースやジャズのようなアメリカ独自の音楽文化のバックグラウンドを持ちつつ、クラシック音楽においても「音楽は楽しむものだ」ということを終生実践し続けた人だと思います。

残されたビデオからも指揮ぶりは、まるでダンスをしているかのようで、本人が本当に楽しんでいる様子がひしひしと伝わります。ちなみに、典型的なカラヤンの指揮姿は、閉眼して口をへの字に閉じて、指揮棒だけをチョイチョイと動かす感じで、バーンスタインとはまるっきり違います。

バーンスタインの偉大なポイントは、ヨーロッパ至上主義が根強いクラシック音楽において、初めて天下を取った生粋のアメリカ人であり、カラヤンと人気を二分したということです。カラヤンとの違いは、さらに自らも作曲活動を行ったこと、そして積極的な教育・啓蒙活動を続けた点も忘れてはなりません。

そして、重要な業績として必ず指摘されるのが、作曲家グスタフ・マーラーの復興です。ユダヤ系のマーラーの作品は、戦争と共にほぼ忘れられた存在になっていたのですが、バーンスタインは「まるで自分が作曲したかのようだ」と述べて、60年代からマーラーの楽曲を掘り起こし、現在のマーラー人気に火をつけるきっかけを作りました。

1918年生まれのバーンスタインは、1943年にワルターの代演を成功させて一躍脚光を浴び、1969年まではニューヨーク・フィルハーモニーの常任指揮者として若さ溢れる演奏で活躍しました。その後は、常任にはつかずに最も人気のある客演指揮者として、ニューヨークだけでなく主としてウィーン・フィル、イスラエル・フィルなどと円熟の演奏で魅了しました。

人物としてはかなり俗物感がある人で、十代からのヘヴィースモーカーであることや、妻子がいても男色も好んだという話は有名です。最近「マエストロ」という映画にもなっているので、興味がある方はご覧になると面白いかもしれません。若いころから肺気腫と言われ、結局、肺がんのために1990年に72才でその生涯を閉じました。

さすがにクラシックのCDも相当な量のものを所有しているので、バーンスタインもかなりあるだろうと思ったら大間違いで、実は数枚しか持ってないんです。その後オーケストラ物に興味を持たせてくれたのが古楽系のJ.E.ガーディナーであり、アバド、そしてその続きのサイモン・ラトルだったので、ある程度それらで満足してしまったというところでしょうか。

そこで、あらためてバーンスタインの偉業を再確認してみたくなってきました。幸いなことに、簡単に全部が揃う巨大ボックスの中古市場もだいぶこなれてきたので、そろそろ大人買いするチャンス到来かと思います。逆にこれ以上待っていると、むしろプレミア価格になってしまうかもしれません。