2025年4月29日火曜日

湯道 (2023)

銭湯を舞台にしたヒューマン・コメディで、湯を極める「湯道」提唱者である放送作家の小山薫堂が企画・脚本を担当し、数々の大ヒットドラマ、そして「マスカレード・ホテル」などの映画に携わった鈴木雅之が監督しました。

東京で個人で建築事務所を営む三浦史朗(生田斗真)は、仕事がうまくいかず実家の銭湯「まるきん温泉」を廃業してマンションにしようと考え戻ってきます。父は2か月前に亡くなり、史朗は葬儀も顔を出さなかったため、今は銭湯を仕切っている弟の悟朗(濱田岳)は冷たくあしらいます。

住み込みの唯一の従業員である秋山いずみ(橋本環奈)は働き者で、まるきん温泉の看板娘になっていました。また父の代から「風呂仙人」と呼んでいる不思議ないで立ちの老人(柄本明)が、無償で薪にする廃材を集めてくれていました。

常連には、朝一に訪れて大声で美声を響かせる小林良子(天童よしみ)、近くの食堂の夫婦(寺島進、戸田恵子)、銭湯に来るのが楽しみな老夫婦(笹野高史、吉行和子)などがいて、さらに風呂にこだわる山岡(浅野和之)、その娘の婚約者アドリアン(厚切りジェイソン)などもいます。

もうじき定年を迎える郵便配達の横山(小日向文世)は、二之湯薫明(角野卓造)が主宰する湯道に参加していて、定年を機に自宅の風呂を檜にしようと計画していましたが、妻と娘たちにはその気持ちを理解してもらえないでいました。湯道は茶道や華道のように風呂を極めることを目的としており、薫明を家元とし、弟子の梶斎秋(窪田正孝)が補佐して、いかにして湯につかることで心の安静を得るかを説くのです。

史朗が銭湯の廃業の話を切り出したことで悟朗と大喧嘩になり、窯場でボヤ騒ぎを起こしてしまい、悟朗は入院してしまいます。しかたがなく史朗は風呂仙人に手ほどきを受けながら、湯を作ることを覚えるようになります。退院した悟朗は、冷静になると確かに銭湯を続けるのは無理だと考えるようになり、父親も廃業するように遺言を遺していたのです。

まるきん温泉がなくるとにショックを受けたいずみは姿を消してしまい、兄弟は横山からいずみが薫明の体験した生涯最高の風呂の話を詳しく聞き出していたことを耳にして、その風呂がある山の中のすでに廃業した茶屋に向かうのでした。

風呂好きにはよく知られた権威のある評論家の太田与一(吉田鋼太郎)は、源泉かけ流し主義を第一とし、温泉でも循環式は否定します。ましてや銭湯が「温泉」と名乗ることなどもってのほかで、昭和の遺物と切り捨てまったく認めようとはしません。太田は、その遺物が今も存在するミステリーを解明するため、まるきん温泉にやって来るのでした。

湯道というのは、当然実在はしないわけですが、昔家を買う時に不動産屋が言っていた、「男性客は風呂、女性客は台所を気に入れば商談成立」という言葉を思い出しました。今は時代も変わって、そんな単純なことではすまないと思いますが、誰でも大なり小なり風呂にはこだわりがあるものです。

ここでは高級料亭のような湯道と居酒屋のような銭湯を対比させて、どちらにも入浴することの幸せがあることを描いています。湯道に偏ると陳腐さがめだってしまいそうなところを、両者の間を横山という一人の人物だけでつなげて、銭湯の良さを中心に展開させたところが上手いと思ました。

ここではいつもコメディ担当の濱田岳が実にかっこよく、むしろかっこいいはずの生田斗真のほうが情けない感じなのも面白い。何をやっても橋本環奈なのはその通りですが、ここでは脇役でちょうど良いくらいの出方になっているので、監督の役者の使い方がさすがというところだと思います。