2025年8月23日土曜日

LOOSER 2022 (2022)


TEAM NACSの結成25周年記念プロジェクトの最後を飾るのは、何と全国進出の足掛かりとなった2004年の第10回公演「LOOSER〜失い続けてしまうアルバム」のリメイクです。しかも、ただ再演するなんて安易なものではありません。

多くのテレビ・ドラマや映画で活躍する脚本・田中眞一、監督・木村ひさしを迎えて、舞台作品のテイストを生かしつつ、まったくの新しい映像作品として再構築されました。完成された映像は 配信と舞台挨拶付き劇場上映という形で公開されました。

登場するのはメンバー5人ですが、一人一人が18年前の舞台よりより多くの役柄をこなすことになりました。

森崎博之 = チンピラ2、事務所マネージャー、近藤勇、宮部鼎蔵、松平容保、原田左之助、斬られる長州藩士
安田顕 = 時空警察、相手の侍、芹沢鴨、古高俊太郎、永倉新八、北添佶摩
戸次重幸 = シゲ、山南敬助、吉田稔麿、池田屋惣兵衛
大泉洋 = チンピラ1、監督、謎の男、土方歳三、坂本龍馬、藤堂平助
音尾琢真 = 時空警察、沖田総司、桂小五郎

もう、何だこりゃという感じなんですが、カットごとに撮影された映像作品なので舞台と違い役の入れ替えは容易です。一番役が多いのはリーダーの森崎博之ですが、どれを演じても森崎なところがいかにもという安心感があります。逆に、安田顕は、6役をしっかり演じ分けているのには感心します(そのうち3役は死んじゃうのに)。

音尾琢真の沖田と桂の二役は舞台と同じでどちらも重要な役所ですが、18年前と比べると気負いがなく楽しんでいる感じ。同じく大泉洋も土方と坂本の入れ替わりの謎が早くに明かされていて、いずれの役も苦み走った顔が超かっこいい。最後にちょっと出る藤堂で、いかにもそれらしいおちゃらけをちょっとだけ見ることができます。

このストーリーの主人公はここでも戸次重幸で、現代人のシゲは中年になっても売れない役者。さすがに役者を続けることに嫌気がさしていて、借金取りのチンピラに追いかけられるわ、妻には去られてしまうわの散々な人生を送っています。小さい神社のお供えの饅頭をくすねた途端に、社の中に吸い込まれてしまいます。

シゲは気がつくと160年前、青い新選組の羽織を着た山南敬助になっていました。事態が飲み込めないシゲは、皆から訝しがられます。あちこちで問題を起こす芹沢を粛清することになり、土方が芹沢を介錯するところを目撃します。様子がおかしい山南を見て、土方は山南が未来人だと見抜き、着ていた赤い羽織を裏返しに着直し自分が坂本龍馬であることを教えます。そして、荒廃したさらなる未来から、池田屋事件を新選組の失敗に導き未来を変えるためにやって来たというのでした。

竜馬の剣が山南に振り下ろされた途端に、シゲは光の中に吸い込まれ気がつくと現代に戻っていたのです。不思議な夢を見ていたのかと思うシゲでしたが、少しだけ幕末の歴史を勉強してみます。そして、まるで死んでいるかのように生きている今より、あの夢の中の時代に惹かれ始めていることに気がつくシゲなのです。呼び出されたかのように再びあの神社の前に立つと、再び光の中に吸い込まれていくのです。

気がつくと、今度は長州藩邸にいるシゲ。桂小五郎らからは吉田稔麿と呼ばれ、来ている羽織の色が違う。彼らと料亭に向かうと、そこへ坂本竜馬が現れ尊王攘夷の演説を行い京都焼き討ちの詳細は池田屋で相談すると言いますが、シゲは勇気を振り絞って、今は敵対している薩摩と薩長同盟を結び新しい日本を作るのが桂のすべきことであり、京を混乱に陥れ天皇を拉致することはかえって批判されるだけだと異を唱えるのです。

ここで坂本竜馬、いや実は土方でもある未来人の謎の男は、吉田が山南、いやシゲであること気がつくのです。その時、近藤率いる新選組が改めのため登場します。桂らを裏から逃がすと素早く羽織を裏返し土方になる坂本龍馬。逃げそこなったシゲも羽織を裏返すと、再び山南と呼ばれるのです。土方は捕えた古高を拷問しますが、古高は池田屋での決起集会のことは口を割りません。しかし、土方は日時も場所も知っていると言い古高を切り捨てるのでした。

そして、ついに池田屋に集まる攘夷派を一網打尽にするため新選組は店の周囲を固めるのです。シゲは、羽織の着方で新選組にも長州藩士にもなれるなら、羽織を着なければ? と思いつき、何とかこの争いを回避するため、羽織を脱いで池田屋の主人になりきるのでした。しかし、一度動き出した歴史の歯車は誰にも止めることはできないのです。

映像作品ですから、いくらでもロケやセットを組んでリアリティを出すことは可能なはずですが、ここでは撮影所の中の存在しないはずのステージが舞台と言う設定。周りには現実的な撮影機材などが置かれ、セットとして組まれたのは1つの屋敷だけ。これを場面ごとに異なる場所として利用していくという、まさに演劇的手法が用いられています。

またいくらでもメンバー以外の客演を入れることが可能であるはずなのに、細かい役所までTEAM NACSに振り分けています。大勢がいるはずの場面でも、「いる体」で押し切ってしまうところが、いかにも舞台を見ているような錯覚を起こさせます。しかし、映画的な処理によって、舞台(やそのDVD)よりもより臨場感のある場面が展開します。

2004年版では「チョンマゲもチャンバラもない」が売りになっていましたが、今回は殺陣のシーンがあるのも興味深い。やはり実際に(演技として)斬り合うというのは、緊張感が一気に増しています。またそれぞれの台詞もはっきりと聞き取れることも、舞台とは違う良さかもとれません。

リメイクとは言え、そもそも何で土方と坂本が同一人物なのかという点が、大きく改変されていて、シゲのタイムスリップを含めて合理的な理由付けがされているところが素晴らしい。オリジナルをしっかりとリスペクトしつつ、さまざまな役を経験してメンバー5人が確実に大物に成長したことを実感させてくれる作品に仕上がっていると思います。