夏季臨時休診

夏季臨時休診のお知らせ 8月14日(金)~8月19日(水)臨時休診します。

2026年7月29日水曜日

Saved (1980)


ここから80年代に入ります。世間を見渡してみると、アメリカの音楽界には大きな潮流が押し寄せていました。その一つが、AOR(Album Oriented Rock)の流行です。日本では曲解されてAdult Oriented Rockと呼ばれ、大人のための洗練されたロック音楽で、ジャズやR&B(リズム・アンド・ブルース)などの要素を取り入れた、都会的なオシャレなサウンドが特徴とされます。

ブルース・ロックから転向したボズ・スキャッグスの1976年の「シルク・ディグリース」は、その先駆けとして名高いアルバムです。ボビー・コールドウェルは、1978年のデヴュー曲「風のシルエット」のヒットで「Mr.AOR」と呼ばれるようになりました。そして、クリストファー・クロスは1979年に「南から来た男」でデヴュ―し、瞬く間にAOR界の人気者になります。

人気が低迷していたブラス・ロックの老舗バンド、シカゴはデビッド・フォスターをプロデューサーに迎えてAORバンドとして再生しました。サザン・ロックの雄、イーグルスの中心メンバーだったグレン・フライもAORに転向して成功します。同じくサザン・ロックの名門、ドゥービー・ブラザースも、1975年に加入したマイケル・マクドナルドの影響でAOR化していきました。

ボブ・ディランのイメージは「周囲に迎合しない無骨なフォーク、ロックの詩人」で、当然AORとの対極にいそうなアーティストだと思いますが、あらためて聞いていると1978年の「Street Legal」は、ブラスや女声コーラスを導入して、都会的なウエスト・コースト・サウンドに寄せたAOR的なアルバムであることに気がつきます。

また、「Slow Train Coming」はアルバム全体でキリストを褒めたたえるというのはまさにアルバム志向(Album Oriented)ですし、電子ピアノの導入も大人っぽいオシャレを感じます。また、参加したマーク・ノップラーのギターは泥臭さが無い都会的なサウンドでした。つまり、ゴスペル期のディランは、AORの主流とは方向性は違うものの、いろいろな葛藤を乗り越え人間として大人になったサウンドに変化していたということができるのかもしれません。

とは言え、ゴスペル期真っ只中のディランは、ライブでも心から説教をしたりするようになり、集まった聴衆からは評判が悪い。それでもめげないのがキリスト信仰に目覚めたディランの強さなのか、1980年2月になると新作アルバム「Saved」の制作に取り掛かります。

前作は隠喩的な表現でしたが、今回はまさに直接的な宗教色を出した「(自分が)救済(された)」というタイトルです。さらにアルバム・ジャケットには「神の手」のイラストが描かれるという念の入りようです。

前作では「ゴスペルっぽい」音楽でしたが、確かにこれはゴスペル。黒人教会で普通に歌われていても違和感がないかもしれない。歌詞の中身も、積極的に自分が信仰によって救われたことを知らしめるものばかりになりました。

オープニングはゴスペル名曲のカバーで、これから始まるのは神のための音楽である宣言になっています。自分が救われた歓喜を歌い、導いてくれた人々に感謝し、神のために自分は何をできるかを問います。世間から何を言われても岩のように信仰心は変わらず、さらなる高みを目指して進み、神の慈悲に感謝を捧げるのです。そして、ラストで「最後の審判を迎える準備はできているか」と周囲に問いかけ、周囲に悔い改め信仰を促すのです。

自分のような非英語圏の非キリスト教徒の人間にとっては、内容の理解には難がありますが、例えばサザン・オールスターズのライブで、桑田佳祐が全曲仏教を勧める歌を歌って、最後に般若心経を唱えているようなもの・・・だとすれば、リアルタイムで聞いたアメリカの人々の反応は、困惑と批判に満ちたものになったことはしょうがない。

一方的なメッセージであり、かつ詩的要素がほとんどない創造性が欠如しているという批判は一理あります。とは言え、圧倒的な熱量で歌いまくるディランは凄い。音楽としては、けっこう魅力的な仕上がりなのが不思議です。


A Satisfied Mind
Saved
Covenant Woman
What Can I Do for You?
Solid Rock
Pressing On
In the Garden
Saving Grace
Are You Ready

Bob Dylan (gvo, g, harmonica, key)
Tim Drummond (b), Jim Keltner (ds), Spooner Oldham (key)
Fred Tackett (g), Terry Young (key, back.vo)
Monalisa Young, Carolyn Dennis, Regina Havis, Clydie King (back.vo)

February 11 ~ 15, 1980, Muscle Shoals Studio, Sheffield, Alabama

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