2008年7月6日日曜日

医者は頭が固い

病院やクリニックを患者として受診する時は、体調が悪くてつらい場合なのですから、患者としては医者に自分のことを的確にわかってもらいたいと思っていることでしょう。

でも、医者という人種の偏屈なものが多くて、それぞれが自分のスタイルを持っていますからなかなか患者に合わせてはくれません。だからといって、患者の方から医者に合わせるというのも変なことです。理想的には、患者と医者の両者が歩み寄ってお互いを尊重して問題を解決していくことが望まれます。

それでは、まず話を聞くという時に医者がどんなことを考えて、どのような答えを望んでいるかを考えて見ましょう。そのあたりが自然と一致して、すーっと話が進む場合がお互いにとっていい状況でしょう。いわゆる、「気が合う」ということです。

でも、医者の思考経路を知っていると、少しの努力で話がより伝わりやすくなります。いろいろな意味で、双方の無駄を省くことにつながり、有益なことだと思います。

患者さんの今の体の不調の話を聞き取ることを「問診(もんしん、現病歴、present history、アナムネーゼ、略してアナムネ)」といいます。すべての診断学のスタートであり、大変重要なところです。多くの病気は的確な問診によって、診断がついてしまうとは珍しくはありません。

これらの聞き取り方法は順番がだいたい決まっていますから、頭が固い医者は順番に沿って質問をして、順番が狂うことは大変に嫌います。ですから、質問されたことに主語・述語をはっきりさせながら答えれば最低限はOKということになりますが、ほとんどの場合、自分のつらいところをわかってもらうには不十分と感じることでしょう。

しかし、よけいにしゃべりすぎると、嫌な顔をする医者もいるかもしれません。そこで、医者が知りたがっている情報をうまく伝えることも患者としてのテクニックなのです。では、医者が知りたがっていることはどんなことなのでしょうか。

まず主訴(しゅそ)。読んで字の如しで、主な訴えです。最初に一番の問題が何かがわからないと、話を聞いていてもどこにポイントをおくか決まらず困ってしまうのです。主訴は原則として一つですが、時には複数あることがあります。

医者は一度にいくつもの病気が同時に起こるとは思いませんので、複数の主訴があっても一つの病気が原因と考える癖がついています。ですから、できるだけ主訴は一番つらいこと一つに絞ったほうがかしこい作戦といえます。残りは後で話してもかまいません。

そもそもことの始まりは、という感じで話を始めると何が問題かがわかりづらいので、とにかく最初は一番の来院の目的をはっきりさせるようにした方が、医者は話を進めやすくなります。

さて、続いてその症状についての細かい質問に移ります。これは英語でよく言われる疑問詞の5W1Hみたいなものです。いつから、どこに、どんな、よくなる状況、悪くなる状況かなどです。これを現病歴(present history)と呼んでいます。

その症状はいつからですか、連続的にでているのか、出たり消えたりしているのか、何かすると良くなったり悪くなったりするのかなどを知りたがっています。もちろん、ここが聞き取りの一番の中心です。

一通り、聞き終わると関連情報の収集に移るわけで、それが既往歴、つまり今までにかかったことがある病気や服薬の話です。そしてもう一つが家族歴、家系の中にどんな病気のとがいるかということを医者は知りたがります。また、病気の種類によっては、喫煙・飲酒などの嗜好についての質問も追加されます。

これらの話を聞きながら、視診(ししん)といって顔色や局所の具合などを目で見る診察は始まっています。だいたいの話が終われば、後は触診(しょくしん)、聴診(ちょうしん)、打診(だしん)といった直接患者さんに触れていく診察、理学所見をとっていくことになります。

たぶん日本の医学教育の基本は、だいたいこのような流れで診察を始めるように教え込んでいますから、患者さんもこのような順番を知っていると、話しやすい、あるいは聞いてもらいやすくなります。もしチャンスがあったら、試してみてください。