モーツァルトのピアノソナタは、9月にラローチャのものを紹介しました。そこでも、書いたように、ほんとに山ほどのピアニストが録音していて、そのすべてが「最高のモーツァルト弾き」として紹介されているという状態です。
こうなってくると、どれがいいのかよくわからなくなってきます。古い物ではギーゼキングが、もっとも好まれているのは間違いない。
でも、自分としては、やはりせっかく聴くのなら音がいいもの、せめてステレオ録音というのが大事な条件にあるのです。歴史的な価値とかは認めますが、ある程度の音質は純粋に聴く楽しみのためには落とせないものだと思うんですよね。
クラウスやヘブラーはちょっと古いところでの女流の代表選手です。現役選手ではピリス、内田光子。
男性ではクリーン、グルダ、バレンボイムなどがあげられるのでしょうか。もちろん、異色作のグールドも意外と評価が高いんですよね。
モーツァルトは圧倒的に長調の明るい曲で比較的テンポの速い曲が多いわけですが、そこが人気の原因の一つです。ですから、自分がモーツァルトの演奏に求めるのは、このドライブ感ということなんです。聴いていて楽しくないモーツァルトはいりません。
好きな人に言わせると、「享楽的な明るさの中に一抹の悲しさがにじむ」のがいいんだということのようですが、それはアクセントとしては必要ですが、まぁ横に置いておいてもいいかなと思っています。
それにしても、こんだけ同じような曲調が揃っているにもかかわらず飽きさせずに何曲でも聴けるというのは、モーツァルトの天才のなせる技と云うべきかもしれません。
ただ、ベートーヴェンのソナタに比べると、どうも聴き比べる楽しさはあまり感じないんですよね。ラローチャ以外ではクラウス、ピリス、クリーンは基本的には同じような印象です(耳が肥えていないといわれればそれまでですが)。
ドライブ感が抜群なのは、ベートーヴェンでもそうだったグルダ。もともとコンサートのリハーサル用に録音して日の目をみないうちにマスターが消失してしまっていたもので、偶然カセットテープにダビングしていた物が発見されて話題になった物です。
ですから、やや音質は劣るとはいえ、よほどのオーディオマニアでければ困るような音ではありません。あと数曲足りないために全集とはなっていませんが、これだけの演奏が残されていただけでも十分に嬉しいことだと思います。
ちなみに、グールドの場合は本当に他とは違うモーツァルトです。グールドはモーツァルトを快楽主義として否定していますから、まっこうから崩しにかかったという演奏です。一つだけ手に入れる場合にはとてもお勧めできませんが、2番目か3番目には是非聴いてもらいたいと思います。
実は他のはまだ未聴なのですが、まぁその分はベートーヴェンにまわしてもばちは当たらないでしょう。