2010年12月26日日曜日

Alfred Brendel / Schubert Piano Works

フランツ・シューベルトは1797年生まれ、ベトーヴェンが1770年生まれですから、明らかに一世代折れての登場でした。しかし、ベトーヴェンが1827年に亡くなると、翌年に若くして後を追いました。

ハイドンからモーツァルトに至る古典派の薫陶を受けたベートーヴェンでしたが、シューベルトは古典派からの脱却の道筋を作ったベートーヴェンの影響を受け、来るべきロマン派への架け橋としての存在と言う事ができます。

音楽としての理論的構築の上に詩情を上乗せして、より心に響く音楽を提示してきました。ただ、どうも未完に終わった作品が多い。代表的な交響曲は、まさに「未完成」と呼ばれている。

そのために、作品の構造としても混乱が多く、作品数も研究者によって変わってしまうということが多い。未完成交響曲も第7番なのか、第8番なのか結論は出ていません。

ピアノソナタの作品数の多さはベートーヴェンには負けるものの、モーツァルトを上回る第21番まであるわけですが、これについても未完成と考えられているものがいくつか含まれていて、単独の小品とされていたものが実は未完のソナタの一部と考えられたりしています。

シューベルトは舞台物の作品や宗教物はごくわずかしか残していませんが、圧倒的な存在を示しているのが歌曲のジャンルでした。ここは、もちろん自分のテリトリー外なのであえて入り込まないようにしています。

ピアノ曲は、その数の多さから言っても、相当重要な力が入っていた分野なのでしょう。ただ、歌曲が得意なだけに美しい主旋律を持つ主題が散りばめられているわりには、全体像がややわかりにくく、ちょっと聞いただけではつかみどころが無いような印象を感じることがあるのです。

反復が多いのも、全体像をぼかしている理由になっているかもしれません。そして、後年のシューマンに通じるロマンチックな雰囲気が、より抽象的なイメージを感じさせるのです。しかし、ひとたびはまると、このあたりがたまらないのです。

ピアノ・ソナタは一般に知られるようになったのは比較的新しい話で、そこに重要な役割をになったのがケンプの全集であったことは有名な話です。

ケンプの全集は1965年から1969年にわたって録音されたもので、これによってシューベルトのソナタの再評価がされました。ケンプの自由奔放な表現力が、シューベルトの作風とマッチして、40年たった今でも全集としての不動の価値は減ずることがありません。

自分の場合、たまたま最初に買ったベートーヴェンの全集がケンプだったので、ケンプの他の作品から他の作曲家に入っていったのですが、最初は何となくいい感じという程度の印象でした。

その後、他のピアニストの演奏を聴いて、再び戻ってみると何か聴こえてくるものがあるんですね。あらためてケンプのシューベルトの面白さがわかってきた感じがします。

そして、最近手に入れたのがブレンデルの選集です。もともと廉価版でも出ていたのですが、今回本家のレーベルからブレンデルの引退記念として、あらためてかなりのお買い得価格で登場したので購入しました。

もともと理論派のブレンデルですから、あまり詩情に走りすぎるとかえってやりにくいのではないかと思います。そういう意味では、完全なロマン派とは言えないシューベルトは高からず低からずのちょうどいい位置にあるのかもしれません。これもひとつのシューベルトのありかたというところを聴かせてくれました。