ピアノの旧約聖書といえばJ.S.BACHの平均律クラーヴィア、そして新約聖書といえばBeethovenの32のソナタと相場はきまっているわけです。
これらの演奏は山ほどCDが出ていますので、選び放題の聴き放題。
それに比べて、シューベルトはピアノソナタの数ではベートーヴェンにはかなわぬものの、モーツァルトを超える数を誇っています。にもかかわらず、全集となるとほんとんどありません。これは、20世紀なかばまであまり評価されていなかったということがあるようです。
ところが、1965年から1969年にかけて録音された、このケンプの全集によって日の目を見るようになったということです。
そういう意味で、この全集は大変価値がありますし、ケンプの演奏そりものも素晴らしい。ケンプはテクニックの面で弱いという批評がしばしば見受けられますが、ピアノを弾けない自分にはそのあたりはわかりません。
しかし、ベートーヴェンにしても、このシューベルトにしても、歌心というものを感じる演奏なのです。気負いが少なく、音楽のあるがままに奏者の気持ちがにじみでるような演奏とも言えます。
シューベルトは多くの歌曲の作曲をしていることからも、天性のメロディメーカーで、音符の流れに無理がありません。その分、奏者は自分の感性を出しやすいかもしれません。