2013年1月2日水曜日

黒澤明 「野良犬」 (1949)

日本の映画史上、最も偉大な監督は誰か? という質問は対して、大方の人は黒澤明であるという答えに異論を差し挟むことはないでしょう。

もちろん、他にも有名な映画監督は何人もいますが、内容だけでなく外国の映画人に幅広く影響を与えたという点においても群を抜いています。

1943年、まだ日本が戦時下にある時代に「姿三四郎」で監督デヴュー。この処女作から、黒澤は自分で脚本を書くことにこだわったのです。自身、映画の運命はシナリオの出来にかかっていると断言するほど、重視していました。

そして、戦後シリーズと呼ばれる数本の映画を作った後に、1949年にこの「野良犬」が戦後を描く集大成として発表されました。この作品は、後の刑事物のはしりであり、また映画作りになかに後の黒澤らしさが完成した最初の作品となります。

三船敏郎の新米刑事は拳銃をすられてしまいます。その拳銃で強盗殺人が起こり、志村喬のベテラン刑事に助けられ犯人逮捕に奔走するという話。

三船が街中を歩き回って、とことん情報を集めていく前半は、とにかく戦後日本の混乱した状態を描いていくわけです。闇市、風俗、流行の音楽などがどんどん出てきて、ある意味当時の日本人のエネルギーが感じられる。

後半は犯人像の中に、善と悪を対比させながら、なかなか夢や希望を持てない若者達の閉塞感みたいなものが積み上げられていくのです。

最後の犯人追跡では、犯罪という非日常と家庭でのピアノ練習という日常、泥だらけの犯人逮捕とのどかなこどもたちの歌声というように両極端を画面に描いています。

さらに逮捕したあと、刑事と犯人、つまり勝者と敗者が対照的に疲れて動けない様子は幾何学的な対称性で撮影され、両者が鏡に映った自分のような存在であることが示されます。

終戦の混乱の中では、日本人はちょっとしたボタン掛け違いで、善人にも悪人にもなれるチャンスがあったわけです。

今度、江口洋介の刑事でテレビドラマとしてリメイクされるということですが、今の時代でこの話が成立するかどうかはわかりません。見たいとは思いますが、黒澤の映画と比べたら最初から勝ち負けは決まってしまいそうです。