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2013年1月7日月曜日

黒澤明 「七人の侍」 (1954)

年明けから年代を追って、自分の好きな黒澤明監督の作品を順に紹介してきました。30タイトルの全部を紹介できればすごいのですが、すべてを見ているわけではありません。

となると、「赤ひげ」のあとは、ついにカラー作品の時代となり、「どですかでん」、「デルス・ウザーラ」、「影武者」、「乱」、「夢」、「八月の狂詩曲」、そして遺作となる「まあだだよ」と続き、あと7タイトルが残っています。

「どですかでん」は映画館でも見たことがあり、日常をつないでいくとりとめのない話ですが、自分としては嫌いではありません。しかし、興行的には失敗となり、日本の映画会社は、金と時間がかかる黒澤に資金提供を拒み、寡作となっていくのです。

「影武者」も「乱」も、こだわり抜いて、黒澤でなければ作れなかった壮大なスケールの映画だと思いますが、見終わっても疲労感だけが残り、正直言って再度見たいとは思いません。

「夢」は確かに映画的な絢爛たる美しさがあり、さすがと思わせる画面ですが、スピルバーグが援助してまで見たかった映画なのでしょうか。最後の三つの作品は、黒澤の遺言的な三部作という言われ方をしますが、巨匠が観客を抜きにして、言いたいことだけを遺したという点で賛同します。

「赤ひげ」の成功のあと、ハリウッドからのオファーによる「暴走機関車」や「トラ・トラ・トラ」の企画が頓挫、「どですかでん」の失敗も影響し、黒澤の作品は色彩が加わっただけでなく、その本質も変化してしまったような気がします。

あえて、一言で言うなら、娯楽性の欠如でしょうか。黒澤自らが述べた「映画は感じさせられることが主要な武器」という部分が強調されすぎて、感性に委ねる部分が突出してしまってはいないでしょうか。

というわけで、カラー作品の中から、どれかを紹介するということが難しい。ですから、黒澤の全キャリアの中で、おそらく最も有名であり、また興行的にも成功した代表作を最後に紹介して、黒澤シリーズを締めることにします。

となると、当然タイトルは「七人の侍」に決定でしょう。黒澤作品最長の3時間半近い長編であり、当時の映画7本分の金をかけ、撮影だけで10ヶ月。世界的にも評価され、「羅生門」に続いて世界のクロサワを決定づけました。

さらに、世界中に日本の「サムライ」のイメージを知らしめたことも、(功罪問わず)この作品の成果かもしれません。黒澤作品の侍は、型破りで自分の信念のみによって、正義のために自己犠牲的な精神で行動する者ばかりです。

武士道は忠義が身上であり、完全な階級制度の中でサラリーマン的な存在でもあったはずです。しかし、クロサワの作った''Samurai Spirit''は、世界から尊敬される存在として定着したのです。

当然、欧米人からはなかなか理解されにくい部分であり、西部劇の名匠ジョン・スタージェスが監督したリメイク版「荒野の七人」では、基本的にガンマンが集まる目的は報酬に変更されていました。

この映画の魅力は、もちろん集まった7人のキャラクターと戦いのシーンの迫力です。黒澤を中心とした脚本の完成度の高さと、それを実際に映像化したチーム(監督、撮影、美術、音響など)の力が、見事にスクリーンに結実したものです。

7人にははっきりとした性格設定の違いがあり、また農民側の主な人物も含めて、隠れているそれぞれの人生のドラマを、観客は自然に頭の中で想像していくことができます。

もしも、苦しむ農民のために生死を賭けて戦おうとする設定に無理を感じたとしても、観客は登場人物の何人かには必ず感情移入していくことができる。見て行くうちに、自然と彼らを応援するようになっていくのです。

自分が応援していた者が命を落としても、「よくがんばった」と思えるし、生き残った場合には、「よかった」と胸をなで下ろせる。特にリーダーで作戦参謀の勘兵衛(=志村喬)と偽侍の菊千代(=三船敏郎)に、もっとも特徴が集約しています。

菊千代は本当は農民であり、侍に憧れてふりをしている存在です。前半では、侍たちと農民の中間を埋める存在として重要な立ち位置にあり、後半は成長につれ''Samurai Spirit''を具現化していきます。

最終決戦となる、雨中のシーンの迫力は凄まじい。これだけ人物が密集したなかで馬に乗った野武士が駆け抜けていくことは、相当な危険をともないます。しかも、俳優たちは野武士を殲滅するために駆け寄っていくわけですから、よく死者がでなかったものだと思います(実際には何人かが骨折などしている)。

黒澤は、ここで初めてマルチカメラによる望遠での撮影を行いました。一連の動きをカットごとに止めていたら、躍動感は生まれない。シーンを一気に演じさせ、それを複数のアングルで同時に撮影して、編集でカット割りしていくことで、緊張感を途切れさせることのない迫力を生み出しました。

最後に生き残ったのは、勘兵衛と彼の元部下だった七郎次(=加藤大介)、そして最年少で半人前の勝四郎(=木村功)の三人。生き残り組の選択も、よく計算されています。

激しいストーリーの隠し味のロマンスに絡むのが勝四郎で、彼が死ねば悲壮感が残ってしまう。そして勘兵衛の最後のセリフ、「また我々は負け戦。本当に勝ったのは農民だ」を言わせるために、あとの二人が生き残ったのです。

日本映画の黄金時代を間違いなく支えた黒澤明監督と、その時代の代表作である本タイトルは、映画ファンとして忘れてはいけない存在です。作られた頃と今では時代は違いますが、見る者に普遍的なメッセージを発し続けていることは間違いありません。

こうやって、続けて黒澤映画を見ると、結局自分もたいした映画ファンではないなぁと思いました。選んだ好きな物は、比較的「わかりやすい」ものが多い。世評の高いものでも、見ていて眠たくなってしまうことがしばしば。あと10年くらいしたら、また新たな気持ちで面白さを理解できるものもあるかもしれませんね。