黒澤作品には何らかのメッセージ性がこめられていて、それが多くの人々の共感を呼ぶことが「映画らしさ」へつながっています。黒澤は、映画は感じさせることが武器で、音楽に近い芸術と考えていました。
ただし、それは黒澤にとっても大きな足かせであったわけで、作り込みへのこだわりから人的・物的、そして時間的にも経済的にも映画制作がどんどん肥大化していくことになります。
黒澤プロダクション設立は、かさむ予算、遅れる完成のリスクを共有するため、メインの仕事場であった東宝から提案された物でした。そのきっかけとなった映画が、この「隠し砦の三悪人」です。
ここでは、黒澤は普遍的テーマである人間愛を、ドラマを引き立てるための隠し味にしています。むしろ戦国冒険活劇を作ることに徹して、次から次へと訪れる危機をくぐり抜けていくスリルの表現を楽しんでいるようです。
主役は三船敏郎演じる敗軍側の武将で、彼がお家復興のために姫と軍資金を安全に脱出させる行程がストーリーの主軸。ただそれ以上に、黒澤がおそらく楽しんで描いたのが、一緒に旅をする二人の足軽。
ジョージ・ルーカスが"STAR WARS"を作る時に、この映画をベースにしたことは有名な話。2体のロボットは、農民出の強欲なこの二人をモデルにしています。二人は、いわゆる「ボケとつっこみ」の関係にあり、金に目がくらんで次々と危機を招き入れていくのです。
さらにレイア姫は、この映画の雪姫がモデル。高貴で鼻が高い感じだが、正義感が強く、人を愛する気持ちを持っている・・・みたいところは、まさにそのまま。
本家本元では、オーディションをしても姫役が決まらず、たまたま目にとまった、「野生と知性を兼ね備えた」女学生を大抜擢しました。黒澤が素人を登用するのは珍しいことで、道中は身分がばれないように聾唖者という設定になっているのも、中心人物にも関わらずせりふを少なくするための作戦かもしれません。
ここまで、黒澤は白黒スタンダードで映画を作ってきましたが、初めてスコープサイズを採用します。画面が左右にワイドになったことで、画面の中に映し込む材料が増え、黒澤のこだわりはさらに倍加しました。
中盤、敵方のライバルとの槍対決は、スコープサイズになったことで実現したアクションでしょう。スタンダードでは、人物が小さくなり空や地面が大幅に入ってきます。さらに三船自身が裸馬にまたがり疾走しながらの殺陣も大迫力で、左右への高速の移動を、スコープサイズで見事に表現しています。
この作品は、この後作られる「用心棒」、「椿三十郎」と共に、黒澤の三大娯楽時代活劇と呼べる位置づけにありそうです。邦画の一時代を作る作品の一つであることは間違いありません。