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2013年1月5日土曜日

黒澤明 「赤ひげ」 (1965)

黒澤明のヒューマニズムの頂点にたつ映画。日本映画史上、最も評価の高い作品の一つとされています。また、黒澤=三船のコンビの最高傑作であり、かつこのコンビによる最後の作品でもあります。

時代劇というと、侍が出てきてチャンチャンバラバラという形式はわかりやすい。最近は邦画では、そういう簡単な時代劇は受けないのか、殺陣のないドラマ性の高いもが多いように思います。

黒澤もアクションを中心とした時代物は多く作っているのですが、その一方でヒューマン・ドラマで組み立てた作品群も少なくない。現代劇でも時代劇であっても、黒澤にとって人間愛は、すべてに通じるテーマです。

時代物としては、「羅生門(1950)」、「蜘蛛巣城(1957)」、「どん底(1957)」に続いて「赤ひげ」で一度集大成とし、「影武者(1980)」をプロトコールとして「乱(1985)」で完成します。

この映画は、赤ひげと呼ばれる「医は仁術」を実践する医者のもとにやってきた出世の野望を持った若い医者の視点からかたられていきます。三船敏郎は演技者としても成熟した演技を見せますが、ある意味若い医者の加山雄三が主役でもある。

加山は、すでに若大将シリーズで絶大な人気を獲得していましたが、この映画での役柄がそのまま俳優としての人生上も重なってくるわけです。

前半は、原作(山本周五郎)の数編のエピソードを使って、どんなに貧乏でもその裏にある人生の一つ一つの重みを描き出していきます。医者が出来ることは限られているが、貧乏をなくせば病気が減るという赤ひげの言葉は、真実を突いています。

それにしても、驚いたのは、エピソードの一つとして出てくる地震のために破壊された町並みのセット。わずかトータルで数分間しか出てこない場面なのに、その広大なリアルな作り込みにはさすがと思わざるを得ない

前半が終わると、「休憩」という字幕が出て、3分間程度の間音楽だけが流れているのはちょっと新鮮でした。確かに3時間の作品ですから、この配慮は今ビデオで鑑賞するにしてもありがたい。

後半は原作からやや離れて、若医者の精神的な成長と廓に身売りされた少女の心の回復を中心に話が進みます。お互いを看病することから、少女の若医者への憧れが芽生え、優しさを与えることができる他人ができることで、視野が広がっていく様子は絶妙です。

黒澤映画の特徴の一つに挙げられるのが、複数のカメラで同時撮影する手法。一つの場面を、マルチアングルで撮影することで演技を中断せずに一気に情景を作り上げていくのです。その分、俳優には長丁場の演技への集中力が要求されます。

この映画でも、若医者が狂女にせまられる場面、死んだ父親への懺悔をする娘の場面、 若医者がそれまでの自分の未熟さを認める場面など、各所にその効果が現れています。特に室内劇のシーンで、人物の感情の切れ目が無く、カットがかわっても観ている側の気持ちも途切れることないのです。

今で言ったら、国立病院の院長が、慈善事業で病院経営しているような話は、現実離れしているとしか言いようがありません。しかし、自分の医者のはしくれですから、理想としては忘れてはいけない部分として記憶にとどめておきたいと思います。