いわずとしれた、2006年のキネマ旬報、日本アカデミー賞で最優秀作品と評価された映画。一言で言うと、素人がフラダンスに挑戦して、努力して成長していく話。
この手の話は、映画の素材になりやすい。失敗と挫折を経て、最後に成功することで感動を呼び込みやすい。安易に作ってしまえば、薄っぺらなものになってしまい、そういう映画やテレビドラマは山ほどあります。
監督は李相日という在日韓国人で、テレビとは無関係に純粋に映画を作ってきた人。数年に一本という、ゆっくりしたペースですが、なかなかの実力者。最新作は「悪人(2010)」で、これもかなり評判が高かった作品です。
さすがに、映画作りをよく考えた監督が作っただけに、この作品の内容は素晴らしい。フラダンスへの挑戦という縦糸に対して、用意された横糸がたくさんあり、それがほどよく絡んできてストーリーの厚みが増しています。
横糸を太くしすぎると、話がとっちらかってしまいます。この映画では、そのあたりのバランスがうまい。つまり、メインの横糸に平行して進行するのが炭坑町の衰退という深刻なテーマ。
ただし、あくまでも裏で進行し、炭坑町の田舎娘がフラダンスを始める動機として十分な説得力を与えています。もっとも、実話をもとにしているのだから当たり前と言えば当たり前。
深刻な部分は面に出さず、観ている側はその話を前提に見ていくので、しだいにフラガールたちを応援していく気持ちが強くなっていくのです。
東京から都落ちしてきた元人気ダンサー(松雪泰子)が先生となり、はじめは酒に酔い鼻高々で去勢を張っているのが、しだいに溶け込んでいく。最後の方で、マネージャー(岸部一徳)に「いい女になった」と言わせるところがにくい。
幼なじみの二人の女の子(蒼井優・徳永えり)の友情の話もいい。普通なら蒼井優が主役で、そっちばかりに気持ちがいくところですが、徳永えりを映画冒頭に登場させ、前半の中心としての位置づけを作ります。ですから、途中で父親の転勤により引っ越しして去っていくところが、より重みが増しているのです。
蒼井優の兄(豊川悦司)は、炭坑で働く者たちの代弁者であり、行き詰まっていく炭坑町の危機的状況がわかっているが、簡単には自分を変えられない。変わっていく妹に対して、羨望の気持ちがあって、何とか応援したいが炭鉱夫である男としての意地もある。
そして、それ以上に炭坑町の女として生きてきた母親(富司純子)は、古いタイプで炭鉱を陰から支えてきたプライドがある。いよいよフラガールたちの本番直前に、一人で練習をする娘を見つめるシーンは素晴らしい。
激しく踊る蒼井優と、微動だにせず見続ける富司純子。女も自立していくべき新しい時代と、衰退していく炭坑の過去の時代の対比でしょうか。セリフの無いシーンにもかかわらず、母親の硬い殻がどんどん溶けていく状況がよく伝わってきます。
踊りのシーンでは、たびたびスローモーション撮影がはさまれていて、踊っている人物の気持ちなどを画面の中に抽出するような効果をあげているのもいい。また、時に望遠での撮影で、人物だけを浮き立たせるようなシーンも効果的だと思います。
映画の最後、見事な踊り見せて大喝采をされるところが嘘っぽくならないのは、そういう丁寧な映画作りの結果です。派手なアクションやVFXがあるわけではありませんが、見終わって素直に「よかった、よかった」と感動できる良質の映画だと思います。