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2016年5月29日日曜日

Oscar Peterson / My Favorite Instrument

オスカー・ピーターソンは、日本では比較的人気があったジャズ・ピアニストでした。来日も多かったのもあるのでしょうが、ジャズ好きでない人にも比較的聴きやすい企画ものが多かったせいもあるかもしれません。

そのかわり、と言うのもなんですが、ジャズの世界では評価が低かったことは間違いない。あれは、一般向けの人気を狙ったもの・・・とか、ジャズ初心者向け・・・とか、単なる速弾きの曲芸みたいだ・・・とか。ジャズの巨人と呼ばれる存在よりも、数段低く見られがちだち思います。

一つには、黒人ですがカナダ出身ということが関係があったかもしれません。ジャズの本場、アメリカからするとよそ者という見られ方は少なからずありそうです。

また、スイング末期から活動が始まり、メインストリームとなった対抗勢力だったニューヨークのバップ系のミュージシャンとの共演があまりない。その後も、比較的ヨーロッパでの活動が多かったというのもあるかもしれません。

しかし、スイング・ジャズで培った、強力なスイング感は他の追従をゆるさないものがあり、とにかく聴いていて楽しい。文句なしにのりのりになれるし、鍵盤をフルに使い切る音域の広さと強靭な打鍵は魅力的です。

音楽ですから、聴いて楽しいというのは基本中の基本。ピーターソンの楽しさは、ビル・エバンスには無く、同じジャズ・ピアニストというくくりの中でも異質のものです。日本などで人気だったのは、外国から見ると、ジャズはこうだ、というこだわり無しに単純化して聴くことができたからかもしれません。

名盤と呼ばれるアルバムは活動歴が長いのでたくさんありますが、自分の勝手な好き嫌いでチョイスすると、初期のVerveの中からは今でも人気の高い"We Get Requests"、そしてオリジナルで占められた"Canadian Suites"、文句なしに楽しさが頂点に達する"Blues Etude"といった60年代なかばのものが多くなります。

思い出深いどれか一枚を選ぶと、1968年にドイツに渡ってMPSで録音した一枚、"My Favorite Instrument Vol.4"になるんです。これは、ジャズを聴きだして間もない十代に買った、初めてのピアノ・ソロのアルバムでした。

とにかく、ソロとは思えないダイナミック感、強烈なビートとスイング感。何となく聞き覚えがあるスタンダードばかりだったのもあると思いますが、とにかくその楽しさはジャズの魅力を伝えて余りあるものだったと思います。

確かに初心者にまず聴かせるものとしては、これほどジャズの楽しさを知らせることができるものはなかなか無い。そして、ジャズを聴けば聴くほどにピーターソンの魅力もまた増していくと思います。ときどき、ここに戻ってきたくなる「家」みたいな所なのかもしれません。