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2017年3月21日火曜日

羅生門 (1950)

名実ともに、監督"世界の"黒澤明の代表作とされる作品。

黒澤を単なる日本の監督から「世界のクロサワ」に変えたのは、1951年ベネチア国際映画祭でのグランプリ、金獅子賞の受賞からでした。

しかし、公開当時、国内では難解な映画として興業的には成功とはいえず、どちらかと言うと評判は悪かった。これに目を付けたのは外国人で、難色を示す映画会社を説き伏せて、黒澤には内緒で映画祭に出品したものでした。

1982年にベネチア国際映画祭創設50周年を記念して、過去のグランプリ作品の中から最優秀作を選出しました。そして、「羅生門」が選ばれ、「獅子の中の獅子」の称号が送られました。

2008年にアカデミー・フィルム・アーカイブ、角川映画株式会社、東京国立近代美術館フィルムセンターの共同プロジェクトによりデジタル修復が行われ、現在では鮮明なブルーレイによるビデオを見ることができるは幸いです。

内容は、もう今更どうのこうのと言うことはありません。芥川龍之介の「藪の中」に「羅生門」を混ぜて、黒澤自らの結末を加えることで、「人間不信を乗り越えて、人の善意を信じることが生きて行く上で大切」ということを訴えるもの。

平安時代、一つの殺人事件を巡って、3人の主要人物が検非違使、つまり裁判所のお白州で古都の顛末を語ることになります。

三者三様にまったく異なる経緯を話すため、一体誰が真実を語っているのはわからない。それぞれが自分のエゴのために、自分に都合の良い作り話をしている。そして、四人目として唯一の目撃者が登場しますが、彼もまた嘘をついているのです。

白黒の画面のコントラストが強調されているのは、監督の意図的な操作によるもの。話を回していく場は黒さが目立つ豪雨の中の羅生門。事件を語る検非違使は、白を基調にした場。そして、実際の事件が進行するのは森の中で、暗さの中に日の光が差してくる。

羅生門の豪雨は、降り注ぐシャワーに墨汁を混ぜて、カメラへの写りを鮮明にしたのは有名な話です。また、森の中のシーンでは、大きな鏡をいくつも用意して暗い森の中に日光を導いて撮影したというから驚きです。

俳優たちの演技も、黒澤作品の中でも特にエキセントリックで、それぞれに動物をイメージさせた激しさを、舞台演劇のような徹底的なリハーサルを繰り返して表現させています。

BGM的に音楽もさらりと流すところ、静寂によって俳優を目立たせるところ、そして演技と音楽の相乗効果を狙ったところなどが塾講されています。特に京マチ子が自分の罪を語っていく中で、少しずつ曲が荒々しくなっていくボレロと演技との見事な咬みあいは見事としか言えません。

確かに難解で、一つ一つの台詞、俳優たちの一挙手一投足を一瞬たりとも気を抜かずに注視していないといけないくらい、見る側にも相当な緊張感を強いる作品です。まさに、これが世界を代表する映画芸術と呼ぶに相応しい。

映画好きな方なら、間違いなく一度は見た方がよいし、その結果として好き嫌いが分かれることはかまいません。評価が賛否のどちらだとしても、必ず何かを感じることができる映画です。