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2017年3月16日木曜日

ハドソン川の奇跡 (2016)

去年、「6人の映画作家」というタイトルで書きました。その後も、少しずつDVD、できるならBlu-rayで、作品を集めて、ほぼコンプリートしてきました。

すでに「過去」のものとなっている、それらの作品を本気で見直すだけでもむっこう大変。

しかも、人生の半分はとっくに過ぎている身としては、新しい感性を取り込んで磨き上げるパワーはあまりありません。そもそも、新しい映画については・・・もうほとんど期待していない。

邦画はことごとく漫画の映画化で、視覚芸術としてはすでに映画作家のオリジナルではなくなっています。厳しい表現をするなら、それらの監督は単なる映像化職人です。

海外の映画についても、話題になるのは・・・まぁ、すべてを知っているわけではありませんから、あまり大風呂敷を広げてしまってもしょうがないのですが・・・

もともと映画産業の中にあって成り立っているものですから、商業的な成功も映画そのものの評価として重要であることは間違いありません。

しかし、昨今の作品の多くが商業的な成功を引き出すために、平たく言えば「うける」ために作られ、メディア・ミックスという、一見自由なようで、作品の価値が拡散し薄められた状態が日常化しています。

もっとも、今はビデオがあって、昔のように映画館で一度きりしか見られないというものではないことが、大きく影響していることは否めない。

つまりビデオ化したソフトが公開後に売れることが前提にあって、そのために売れるためのいろいろな条件が優先されていて、もともと大ヒットした原作、人気のある俳優を起用し、あっと驚くようなCGを多用といった作り方が普通になってしまいました。

また見る側も、気に入ったらあとでビデオを繰り返し見ればいいという、安易な鑑賞に慣れてしまったんでしょうか。もっとも、今では映画館に足を運ばない自分も、その一人であるんですけど・・・

自分が制覇すべきと思っている映画作家の中で、今でも現役なのはクリント・イーストウッドのみ。イーストウッドは、現代映画界においても作品を作り続けているわけですが、このような映画産業の変化に対応できているのか?

さすがに過去の功績からハリウッドの長老に位置するイーストウッドですから、別格の扱いというところだと思います。もっとも、イーストウッド作品リストをあらためて眺めてみると、すべてが成功しているわけではありません。

なんじゃこりゃ的な作品もそれなりにあって、商業的に失敗した次はあきらかにうけることを前提にした作品があり、成功作があると次はやりたいように好きに作るみたいな・・・要するに「大人の対応」がうまい。

アカデミー賞受賞監督になってからは、イーストウッド作品というだけで、一定の収益が確保できるようになったのでしょうし、昨今は比較的自由な作品作りが許されている稀有な監督だと思います。

イーストウッドの最新作は「ハドソン川の奇跡」で、すでに86歳のイーストウッドからすれば最後になるかもしれない・・・という重圧は微塵も感じられません。いつものイーストウッドによる、イーストウツドらしい作品。

ハドソン川への飛行機不時着という事件そのものよりも、その時の機長を主役にして不時着そのものが正しかったのかを問うというテーマはさすがです。

今どきの人気監督が作ったら、CGの嵐で単なる飛行機事故パニック映画で終わってしまう素材だと思いますが、事故後の関係者の人間ドラマとしての重みがしっかりしている。それが、あらたまって重たくなりすぎていないところが監督らしいところ。

高齢ではありますが、また次回作も期待したいと思わずにはいられません。