年末年始診療 12月29日~1月5日は休診します

年内は12月28日(土)まで、年始は1月6日(月)から通常診療を行います

2019年2月24日日曜日

プリンセス・トヨトミ (2011)

マクガフィン・・・って、知ってますか。

ヒッチコックが、マクガフィンについて語っているのが有名なんですが、映画の中でストーリーを展開していくための動機付けみたいなもので、それ自体には意味は無い。そのことを気にする必要はなく、あくまでもきっかけ程度の物。

この映画では、騙されてしまいやすいのですが、実にタイトルそのものがマクガフィン。はっきり言って、「プリンセス・トヨトミ」なんてのは、どうでもいい。そこを理解して見ないと、まったく理屈の通らない、現実離れした絵空事であり、ダメダメの映画という評価になってしまう。

この映画の評価が二分している理由はそこにありそうで、自分も傑作とは思ってはいませんが、バカげた設定の中から意外な真理をついている部分があるように思いました。

会計検査院に所属するやり手の松平(堤真一)は、部下の直感型でおっちょこちょいの鳥居(綾瀬はるか)とニヒルで天才肌の旭(岡田将生)と共に、大阪にある社団法人OJOの調査に当たります。

OJOの奇妙な点に気がついた松平は、ふだんはお好み焼き屋の主人をしている真田(中井貴一)の案内で、OJOの中にある地下通路に案内されます。赤い絨毯がつづく真っすぐの長い廊下は、かつて豊臣が万が一の場合に脱出用に用意した地下通路の跡でした。そこで真田が語ったのは、驚きの話でした。

大阪夏の陣で、徳川は豊臣家を根絶やしにしたはずでしたが、一人だけ取り逃がしていた。豊臣の末裔が生き残ったことが、大阪の人々の心の支えになり、次第にその子孫を守っていくことのために「大阪国」という集団となっていきました。

その心は脈々と代々伝わり、現代社会でも大阪の人々は日本国民でありながら、精神的支柱である大阪国の人間として二重生活を送っていたのです。そして、OJO、つまり王女を守っていくことが大阪国民の使命なのです。

OJOは、大阪国の実務機関としての組織で、明治維新の際に大阪の財源提供と引き換えに明治新政府の幹部が「大阪国」の存在を認めることに署名していました。以来、隠れた存在として多くの国費がOJOに支出されてきたというのです。

大阪国民が見守る中で、「会計検査院としてはこの国費の使途については認めることはできない。税金がつぎ込まれている以上、日本国民にそれを知らせる必要がある」という松平に対して、真田との議論は白熱します。

大阪国民となる条件は二つで、一つは元服している年齢であること、そしてもう一つは父が死んでいること。父親は、自分の死期が近いことを知ると、息子を連れて赤い絨毯の廊下をを歩きながら、大阪国の話をして守るべきものを託す。ですから、父親に連れられてきた時と、息子を連れていく時の、一生に二回だけあの廊下にやって来るのです。

長い時間をかけて、父親と息子が話をすることは他には無い。だからこそ、そこで語られることは、どんなにバカげた話だとしても、信じることができる。そして、それが生きている意味となり、これからも守り続ける必要があるのです。

この映画のポイントは、この点に尽きる。親子で受け継ぎ守るべきものがあることが、秩序を生み出し、人としての生存理由の一つであるというのは、シンプルですがそれなりの説得力のある考え方で共感できる。

ただし、この映画の中では、父と息子に限定し、女性が排除されていることは現代社会にそのまま通用できる話とはいえない。せっかく壮大な荒唐無稽の設定をしておきながら、あと一つ足りないところを感じるのが惜しいところ(原作は未読なのでわかりません)。

松平は、大阪人の父親が亡くなる直前に息子に大事な話をしたがっていた記憶が蘇ります。しかし、松平は過去のいきさつから仕事を理由に父親を無視したのでした。松平は初めて父を理解することができ、そして無視したことを後悔し引き下がるのでした。

岡田将生にも、大阪との関連が出てきますが、残念ながら綾瀬はるかの鳥居には、コメディ要素としての存在以上の意味付けが乏しい。大阪に向かう新幹線の中で、鳥居はこどもの時に、富士山の裾野にたくさんの白い十字架を見たと話しています。そして、ラストでは、帰りに松平が白い十字架を目撃しました。

結局、これもマクガフィンの一つであり、大阪国の話とは直接の関連はなく、日本中に何かを連綿と守っている信念のようなものがあると暗示しているに過ぎません。綾瀬はるかは、話のめりはりをつける点では必要な存在なのですが、会計検査院側の人物が徳川に由来する役名をつけたからには、もう少し話の骨格への絡みが欲しかった。

マクガフィンはさりげなく使って、映画を見ている人は途中からは忘れてしまうくらいのものである方が効果的なのですが、岡田将生に最後に「さよならプリンセス」と言わせたりして、膨らませ過ぎているところが失敗ではないでしょうか。

監督はフジテレビの「世にも奇妙な物語」、「HERO」などを手掛けた鈴木雅之。この映画では過去を未来に導てきましたが、このあと続編ではありませんが、同じキャストで過去に戻る「本能寺ホテル」を作っています。ちなみに最新作が「マスカレードホテル」です。