1953年のアメリカ映画「シェーン」は、古典的名作として今なお語り継がれていますが、この映画のテーマソングの邦題が「遥かなる山の呼び声」であり、山田監督がこの映画に対するオマージュとして脚本を作り上げました。
第4回日本アカデミー賞では、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞などを獲得し、映画的にも「幸せの黄色いハンカチ」よりも高い評価を受けて、高倉健の代表作として上位にランキングされることもあります。
北海道釧路で、病死した夫の残した牧場を一人できりもりしている民子(倍賞千恵子)には武志(吉岡秀隆)という子供がいました。春早い頃、嵐の夜に一人の男(高倉健)が雨宿りをさせて欲しいと訪ねてきます。ちょうどその夜、牛のお産があり、男はそれを手伝って翌日帰っていきました。
数カ月して、再び男が牧場にやってきて、しばらく働かせてほしいと言い出します。はじめは、不安に思った民子でしたが、武志も打ち解け、いろいろと牧場を手伝ってもらうい、それまでの張りつめた気持ちが安らいでいくのでした。
ある時は、民子にしつこく言い寄る地元の料亭の主、虻田(ハナ肇)を撃退します。民子が腰痛で動けなくなり入院した時、男は武志に、父親と兄と三人暮らしだったが、父親が自殺してしまい泣きたかったがガマンしたという話を聞かせます。
秋になって男は草競馬に出場し優勝しますが、その会場に刑事がやってきて男に「函館の田島だろう」と尋ねます。男は、その夜、民子に明日出ていくといいます。そして、実は借金を苦にして自殺した妻の葬儀にやってきた、高利貸を殺してしまい逃げているところだと告白するのでした。
翌日、牧場に警察がやってきたので、男は素直に車に乗り込んで去っていきました。裁判で懲役が確定し、網走の刑務所に列車で移送されている途中の駅で、民子が列車に乗り込んできます。そして、牧場は手放し、男を待っていることを伝えました。男は涙を流し、民子は黄色いハンカチを渡すのでした。
1年を通して、ダイナミックな北海道の自然の風景を見事に写し込んでいるところが素晴らしい。実際に俳優陣が、トラクターを運転し、農作業を行い、まさに汗を流して働いている様子が、見ている者を話しの中にどんどん引きずり込んでいきます。
出会いと別れは必ず一対になっているわけで、突然現れた男は、いつか突然去っていくのだろうとひやひやしてみていくのですが、何かそれを阻止する解決策があるのではないと思わせてしまいます。そして、泣きたくても泣けなかった男が流す涙は感動ものです。最後の小道具が黄色のハンカチというのも、拍手喝采もの。
姉のように民子を慕う従弟の役で武田鉄矢、牛の人工授精士として渥美清、獣医は畑正憲、男の兄で鈴木瑞穂などが話の中でアクセントとして登場し、話のメリハリを深めています・それにしても、この時から、吉岡秀隆は北海道が似合う名子役だったんですね。