お父さん、怖いよ。何か来るよ。大勢でお父さんを殺しに来るよ
男はタフでなければ生きていけない、優しくなければ生きている資格がない
この二つのフレーズが、宣伝のためのキャッチコピーとしてメディアを賑わしました。物語のテーマである「野生」とは何かわかりにくいのですが、「荒々しく暴力的」というような意味ではなく、「愛おしいと思うものを守ろうとする本能」と健さんが後に語っています。
味沢岳史(高倉健)は、自衛隊の中で極秘にされている殺人をいとわない特殊部隊の一員で、東北での過酷な訓練中、寒村での全村民大量虐殺事件に遭遇します。
それから数年後、退役した味沢はその近くの地方都市で保険の外交員として、事件の唯一の生存者、頼子(薬師丸ひろ子)を養女にして暮らしていました。頼子は事件後から「予知能力」を持つようになり、失った記憶を少しずつ取り戻しつつありました。
その街は、ほとんどが一企業の支配下にあり、会長の大場(三国連太郎)は市長、警察、新聞社なども意のままにし、自衛隊にもパイプを持つ人物でした。虐殺事件の巻き添えで姉を失った女性記者(中野良子)は、この巨大悪を暴こうとして味沢に協力を依頼します。
虐殺事件は頼子の実の父親が、風土病から精神に異常を来して起こしたものと判明しますが、北野刑事(夏木勲)だけは、味沢の犯行と考え執拗に単独捜査を続けていました。大場の一人息子の成明(舘ひろし)は、女性記者を殺害し、さらに味沢のにも迫ってきます。
ついに格闘となり、味沢の特殊部隊員としての経歴が覚醒し、成明らを殺してしまうのでした。そして、その姿を見た頼子は、味沢が父親を殺したことを思い出します。実は、それは、娘を殺そうとしていたために行ったことだったのですが、頼子は心を閉ざしてしまいました。
北野刑事は、味沢と頼子を伴って、街から脱出しますが、味沢の存在を消去したい特殊部隊(隊長は松方弘樹)の攻撃を受けるのでした。自衛隊演習地に紛れ込んだ三人は、特殊部隊員を倒しながら逃げ続けますが、北野刑事のその中で自ら盾となって命を落とします。
味沢は頼子を逃がすために、一人でヘリコプターから攻撃してる隊長と対峙します。そこへ、すべての記憶を取り戻し、味沢を許せるようになった頼子が「おとうさん!!」と呼びながら走り出てきますが、機銃掃射により絶命します。味沢は、頼子の亡骸を背負い、一人拳銃を構えて、戦車部隊に正面から立ち向かうのでした。
映画はここで終わりますが、当然、勝てる状況ではなく、味沢の何かを守るためにはどうしてもやらないといけないことがあるという鉄の意志を示しているわけです。しかし、冷静に考えると、この映画では、悪の崩壊の兆しはあるものの生き残り、善は全員死んでしまうわけですから、ある意味「救いがない」健さんらしい映画かもしれません。
自衛隊が悪者ですから協力してもらえなかったので、アメリカでの軍の協力のもとのバトル・シーンが撮影されました。自衛隊の装備には無い装備が出てくるという突っ込みがあるかもしれませんが、かえって迫力はあって見どころになっています。また、この作品が映画デヴューとなる13才の薬師丸ひろ子は、新人とは思えない堂々とした演技で健さんをもうならせました。