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2019年2月9日土曜日

居酒屋兆治 (1983)

降旗康夫監督、木村大作撮影、高倉健主演のゴールデン・トリオによる作品。高倉健の役柄は、現役ヤクザ、元ヤクザ、犯罪者、元犯罪者、あるいは軍人、警察官など強権の中で我を通して一悶着があるものが多い。この映画では、たぶん初めて普通の人の設定・・・といっても、それなりに浮き沈みがあります。

今回の舞台は居酒屋で、健さんは居酒屋の親父で主題歌も歌います。ヒロインは初共演の大原麗子で、なんともけだるい哀しみしかない役柄。居酒屋には、いろいろな人々が集まるので、結構意外な人物が登場してくるのが面白い。常連客には、池辺良、小松政夫、細野晴臣、武田鉄矢、山藤章二(題字も担当)、山口瞳など。校長は大滝修治、その若き後妻に石野真子、向かいのスナックのママはちあきなおみ、もつ屋にあき竹城、そして居酒屋のことを伝授したのが東野英治郎といった面々。

函館の斜陽化した造船の街の一角で妻(加藤登紀子)と居酒屋をやっている兆治(高倉健)は、かつて活躍を期待された高校球児でしたが肩を壊して造船所に入社します。しかし、リストラの担当になることを嫌い退社しました。

かつて恋仲だったさよ(大原麗子)は、牧場主(左とん平)と結婚しこどももいますが、いまだに兆治のことが忘れられず、しばしば行方をくらましてしまいます。ある日、さよは竈の火が周囲に広がっているのを見て見ぬふりをして家が全焼し、「あなたがすべて悪いのよ」とつぶやき消えてしまいました。

兆治は昔からの仲間の岩下(田中邦衛)と休日をすごしたりして平穏な生活をしていましたが、さよかららしい電話がかかってくるようになり、昔のことを思い出さずにはいられなくなります。

常連客の河原(伊丹十三)は昔の先輩で、何かにつけて横柄な態度でしたが、仲間に対する軽口についに我慢できなくなった兆治は殴ってケガをさせてしまいました。警察に留置された兆治は、河原の事よりも放火の嫌疑をかけられているさよの行方について追及されるのでした。

札幌のキャバレーで働いていたさよは、酒浸りの生活でどんどん健康を害していきます。釈放された兆治は、さよを探し出すしかないと決意し、噂を頼りに札幌に出ます。やっとさよの住居を探し出した兆治を待っていたのは、酒のせいで吐血しすでに冷たくなっているさよでした。手には昔の兆治との思い出の写真を握りしめていました。

このようにあらすじだけ辿ると、あまり救いのない話で(もっとも健さんの映画はそんなのが多い)、微妙な雰囲気が残ってしまいます。ここで、意外と映画の雰囲気をまとめあげるのに功績があるのが、妻役の加藤登紀子。

当然、大原麗子のような華やかさはありませんし、女優としてうまいわけではありません。しかし、とんがった夫の人生に振り回され、黙って支え続けるという役柄を静かに好演して、健さんの帰れる場所をしっかり作ってくれています。

それにしても、悲しみを溜めるに溜めた目をした大原麗子さんは美しいですね。せりふは最小限で、ほとんどが表情・行動だけの演技ですが、そこからひしひしと情念みたいなものが伝わってきます。あらためて、すごい女優さんだったと思いました。