2019年2月8日金曜日

駅 STATION (1981)

高倉健の円熟期以後、多くを監督したのは降旗康夫です。最初に二人が出会ったのは、東映時代の1966年ですが、本格的に仕事を共にしたのは1978年の「冬の華」でした。

ここでは、健さん唯一の連続テレビドラマ「あにき」の脚本を担当した倉本聰が、任侠物で人気を得た高倉健のイメージを蘇らせると同時に破壊する本を書いたのでした。現在ヤクザである姿を健さんが演じた最後の映画であり、東映任侠映画の挽歌と言われています。

時代の波において行かれた古いヤクザとして、健さんは自らの任侠物のキャラクターに終止符をうつことになるのですが、いくら変化したNEW健さんであろうと、どうも義理人情の切ったはったの世界はどうしても好きになれない。

そして、再び健さんが降旗監督とタッグを組んで、さらに名カメラマンの木村大作を加えたトリオの最初の作品となるのが、「駅 STATOPN」という男女のドラマです。

倉本聰が、健さんの誕生日プレゼントとして渡した脚本が元になりました。倉本は、どんどん寂れていく北海道の田舎の駅舎に健さんを立たせてみたいという思いから書き上げました。

いきなり映画の冒頭、刑事の三上(高倉健)は妻(いしだあゆみ)と子供が列車に乗って去っていくのを銭函駅で見送るシーンから始まります。三上と妻は直接会話をすることはなく、別れることになった細かい説明もほとんどありませんが、列車が走りだし涙を流しながら無理に笑顔を作ろうとして敬礼をする妻の姿は、それだけで大きなインパクトを与えてくれます。

今更ながら、いしだあゆみの美しさと、セリフの無いにもかかわらず並々ならぬ演技に脱帽するしかありません。最初の数分間で、すでに最高のクライマックスを見てしまった思いです。

先輩刑事(大滝秀治)が射殺されるのですが、オリンピックの射撃競技の選手だった三上は、その捜査には参加が許されませんでした。それから8年後、増毛の食堂で働く犯人の妹、すず子(烏丸せつこ)を尾行し、やはり駅で犯人、吉松(根津甚八)を逮捕しました。

さらに3年後、立てこもった銃を乱射する銀行強盗を隙を見て射殺した三上は、犯人の母親の罵声を背中に受けるのでした。そのころ吉松から、死刑執行前の最後の手紙が届き、そこには三上のずっと続いた温情に対する感謝が記されていました。

年末で帰省した三上は、海が荒れて連絡船が出ないため増毛に足止めされ、一軒の居酒屋に入ります。その店をやっていたのは桐子(倍賞千恵子)で、人生に疲れていた男女はどちらからともなく深い仲になっていきます。

年が明け、三上は警察を辞職する決意をして札幌に帰る途中、桐子のかつての愛人が先輩刑事を射殺した犯人であることに気づき増毛に引き返します。そして桐子の自宅で、桐子の目の前で犯人を射殺してしまいます。そして、用意していた辞職願を破って燃やしてしまうと、夜の駅から列車に乗り込むのでした。

律儀に真面目に、一つ一つこつこつと積み上げてきた主人公ですが、仕事の上でも私生活でも、今までの人生で自分の思いがうまく伝わらないことばかり。おそらく、登場人物のすべてが不器用で同じ思いなのかもしれません。

しかし、時間を戻せるわけではありません。駅に立つと列車が来て、そして列車は、走り出したら引き返すことはできません。敷かれたレールの上を真っすぐ走っていくしかないということなんでしょうね。

さすがに木村大作の画はうまい。静と動、色彩の有る無しなどのメリハリがしっかりしていて、画面からあふれ出る詩情豊かな表現はさすがです。また、降旗監督も、俳優陣を無理なく動かして、ゆったりとした中に自然な表情を引き出しているように思いました。