グスタフ・マーラーは交響曲作曲家の大家として知られていますが、交響曲以外はほぼ歌曲しか発表していません。
その中でも、「少年と魔法の角笛」を歌詞とした一連の歌曲が有名であり、自身の交響曲への転用もしばしば行われたことから、マーラー鑑賞上重要な位置を占めています。
少年と魔法の角笛」は、19世紀初頭に出版されたドイツの民用歌謡の詩集のタイトルで、「マザーグース」のドイツ版みたいなもの。この詩集そのもののディスカッションは他に譲るとして、この場ではドイツ・ロマン派以降の作曲家に作曲意欲を沸かせた素材としてだけしておきます。
歌曲集としての成り立ちは複雑で、オーケストラ版が基本ですが、ビアノ伴奏版も作ったり、削除されたり追加されたりいろいろな変更があって、
歩哨の夜の歌
むだな骨折り
不幸な時の慰め
この歌を作ったのは誰?
この世の生
魚に説教するパドヴァの聖アントニウス
ラインの伝説
塔の中で迫害されている者の歌
美しいラッパが鳴りひびくところ
高い知性を賛える
原光(交響曲第2番の4楽章に転用)
3人の天使が歌った(交響曲第3番の5楽章、合唱から独唱への編曲)
天上の生(交響曲第4番の4楽章)
死せる鼓手 (後に追加)
少年鼓手 (後に追加)
という全15曲から、交響曲に転用された3曲を除く12曲の歌曲集として落ち着いたというのが現状です。しかし、歌曲集「若き日の歌」では第1集の5曲を除いて、第2集(4曲)と第3集(5曲)は、少年と魔法の角笛」の歌詞が使用されています。
また、別の歌曲集である「さすらう若人の歌 (全4曲)」は自作詩となっていますが、「少年と魔法の角笛」に強く影響されていることが指摘されています。
アバドは、コンサートでマーラー交響曲を取り上げる際には、時々歌曲も併せて演奏したようですが、正規録音として残されて物はあまり無い。まとまった歌曲集としては、この「少年と魔法の角笛」が唯一のアルバムです。
演奏はベルリンフィル。独唱は、アンネ・ゾフィー・オッター (Ms)とトマス・クヴァストホフ (Br)の二人の名手。
死んだ鼓手、ラインの伝説、不幸な時のなぐさめ、無駄な骨折り、番兵の夜の歌、この世の営み、塔の中の囚人の歌、この歌を作ったのは誰?、魚に説教するパドヴァの聖アントニウス、高き知性への賛歌、トランペットが美しく鳴り響くところ、少年鼓手、原光
という全13曲の構成で、後から追加された2曲でオリジナル10曲を挟んで、交響曲第2番第4楽章「原光」を最後に付け加えた物。だいたいオッターとクヴァストホフが交互に登場する感じで飽きさせません。オッターの登場する第2番が他には無いので、貴重な録音です。