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2019年10月3日木曜日

Claudio Abbado LFO / Mahler Symphony #5 (2004)

クラシック音楽では、最大の弱点は演奏される曲に限りがあること。まだ発見されていない曲とかがあるかもしれませんが、基本的に作曲家はほぼ全員がすでに亡くなっているわけで、「待望の新曲」みたいなものはない。

ところが、演奏者は新しい人がどんどん出てきて、また再びさまざまな過去の遺産に挑んでいきます。楽譜通りとは言っても、使用する楽譜の校訂の違い、演奏者の解釈の違いによって、それぞれ個性があるのが楽しいところ。

とは言っても、ジャズほど個々の即興性を出せるわけではないので、同じ曲を何でも集めていたもつまらない。

例えば、バッハのゴールドベルク変奏曲では、各種の鍵盤楽器だけでなく、弦楽三重奏版、オーケストラ版、管楽器版、ギター版、ハープ版・・・普通にAmazonなどで手に入るCDだけでも100種類以上はありそう。

この例は、まだ楽器の違いが大きいのでわかりやすいのですが、シューベルトのピアノ・ソナタというようなジャンルになると、楽器の選択はモダン・ピアノかピリオド楽器かくらいしかなく、演奏者の差は大変わかりにくい。

まぁ、そのわずかな違いを見つけて喜んでいるのがマニアなんですが、編成が大きな曲になるほどアンサンブルで個々が勝手をするわけにいかないので、達人でも違いを見つけにくくなっていきます。

そこでマーラーですが、マーラーの主要楽曲は9つの交響曲。未完のものと交響曲扱いのものを含めても11曲。交響曲だけでハイドン100曲、モーツァルト40曲からすれば、わずかな数です。

70年代以降、評価が高まりいろいろな演奏者がいどんで、完成された全集だけでも20種類くらいありそうです。個別には一番人気は交響曲第5番らしい。

これは、中に含まれる「アダージェット」の楽章が、ヴィスコンティ監督の映画「ベニスに死す(1971)」にたっぷりと使われた影響が大きく、また長大なマーラーの楽曲の中でも比較的短いこともレコード化しやすかったということらしい。

マーラー初心者の自分が語るには早すぎるとは思いますが、いきなり多くの演奏家を聴き比べるのはやめておいた方が無難のようです。とにかく曲が長いので、聴き比べたくても楽譜を見ながら追いかけでもしない限り、そうそう演奏の違いははっきりするもんじゃない。まずは、お気に入りの演奏家によるものをしっかりと聴きこむのがよさそうです。

そこで、クラウディオ・アバドです。アバドは、実は3回全曲演奏を意図して収録に挑んでいるのですが完成された全集が無い。録音年代・オーケストラの違いを気にしなければすべてを聴くことはできますが、その場合全集と呼ぶには多少無理がある。

しかし、アバドはマーラー指揮者としてはトップではないにしても、一定の評価を受けていることは間違いなく、全体の構成を明解に描き出すという評価がなされているように思います。

そこで、ルツェルン音楽祭でのチクルスです。再三書いたように、動画付きということが、たとえ動きの少ないクラシックでも強力なお助けになる。ベルリンフィルでの演奏が無い第2番を除いて、CD化されてなくビデオのみのためにあまり評価がされていないのが残念ですが、どの曲でも楽団のメンバーからのアバドに対するリスペクトが本当によくわかる素晴らしい演奏です。

2003年のルツェルン・デヴューで第2番「復活」を成功させたアバドの、翌2004年のマーラーは第5番でした。アバドには、さぁ、音楽を楽しもうという雰囲気が溢れています。開始早々のトランペットのファンファーレにつづく、全員の音は一気に会場全体に360゚で鳴り響きわたりワールド全開になります。

有名な第4楽章アダージェットも、徹底的にゆったりとして弦のタペストリーを紡いでいく様は大変気持ちが良い。最終楽章に入って一気にアクセルが踏まれていくのですが、各演奏者の高い力量に支えられてまったく力負けしないアンサンブルは本当に見事。

鳴りやまぬ拍手とともにずっと余韻にひたっていれます。アバドを含め、楽団員全員の満足の表情も大変嬉しい。こういうところが見れるのも、ビデオならではの利点ですね。