ルツェルン音楽祭では、アバドはもちろんマーラーだけ演奏していたわけではありません。ソロイストとしては、ピアノと歌手をしばしば招いています。
ピアノに関して、ビデオとして発売されているのは、ブレンデル、ポリーニという旧知の仲間と共に演奏したベートーヴェンの協奏曲。グリモーとのラフマニノフの2番は、グリモーのビデオが少ないので貴重。アルゲリッチとのモーツァルトはCDで発売されました。
そして、マーラー1番とカップリングで収録されたのは、ユジャ・ワンで、これがまたなかなか優れものです。
演目はプロコフィエフの協奏曲第3番で、ユジャにとっては得意曲だろうと思います。
ユジャにとっては、2013年に発売したアバド指揮マーラー室内管弦楽団とのラフマニノフ第2番があり、これが実質的に人気を決定づけたともいえる重要なアルバムになりました。録音時期は2011年で、2009年のルツェルンでの共演の延長線上に企画されたものだろうと想像できます。
ルツェルンの時点では、ユジャは新進気鋭の若手ピアニストですが、アバドをはじめそうそうたるオケの面々に気後れすることなく、ダイナミックな演奏で聴衆を魅了しました。
今でこそこのくらいの演奏は、ユジャにとっては朝飯前だろうと思ってしまいますが、何しろメジャーデヴューの年の演奏とは思えないなかなかの名演です。強力な左手の打鍵力がいかんなく発揮され、この難曲を見事に弾き切っています。
アバドは絶えずユジャを見ながら、うまくオケをコントロールしている感じ。新人をオケに合わさせるのではなく、オケをピアノに合わせることでユジャが自由に弾けるように気を遣っているところが、孫を心配するおじいちゃん風情。
ピアノとオケの掛け合いが続く変奏曲楽章の第2楽章は、両者の実力如何なく発揮されています。はにかみ気味のユジャの笑顔も◎です。