それまでは、サイレント映画で、基本的に映像だけ。時々最低限の文字画面が出るだけ。日本では、活弁士と呼ばれる「解説者」が、ストーリーや台詞を代弁して説明するスタイルでした。まぁ、動く紙芝居みたいな感じでしょうか。
映画産業にとって、トーキーの発明は革命的だったわけで、特に音楽を重視した映画については、トーキーの発明無くしてはありえなかったことは疑いの余地がありません。1936年公開の「巨星ジークフェルド」は、最初の成功したトーキーのミュージカル映画とされている。
・・・らしいです。なんたって。85年前ですよ。85年前って想像できます? 昭和のおじさんでも、戦争を知らないこどもたちには無理、無理。でもって、精一杯、寄せて知っているのは「オズの魔法使」ということになるわけです。
魔法使い、だろうと思うかもしれませんが、「魔法使」で送り仮名が無いのが正式の邦題。1939年の公開で、巨星に続いてMGM映画です。ハリウッドのミュージカル映画については、40年代から50年代にかけて、MGMが間違いなく先頭を切って引っ張っていました。
特に「オズの魔法使」は、当時としては超珍しいカラー作品で、公開時から大評判になりました。ところが、残念ながらアカデミー賞は「風と共に去りぬ」に持っていかれてしまいましたけどね。もっとも、どっちも監督はヴィクター・フレミングですから、どっちに転んでも監督は嬉しい。
原作は1900年に発表されたライマン・フランク・ボームの児童文学の傑作で、ストーリーについては言うまでも無いくらい有名。嵐で魔法の国に飛ばされたドロシーが、知恵が欲しいかかし、心が欲しいブリキ男、勇気が欲しいライオンと旅をしてオズの大魔王に願いを叶えてもらいに行く。
自分が欲しがっていた物は、実は最初から持っている。人は誰でも大事なものを備えていて、頑張ることで初めてその存在に気が付ける。そして、自分の住む場所、そして仲間や家族の大切さを伝えようという、なかなか奥深い内容のストーリーです。
こども向けの冒険ファンタジー物ですが、原作に忠実に変にこねくりまわしていないし、ミュージカルとしての楽しみがあります。特にメイン・テーマとなった「虹の彼方に(Over the Rainbow)」は、大ヒットして永遠のスタンダードとして有名です。また、主演したジュディ・ガーランドはこの映画をきっかけに人気スターとなり、(必ずしも幸福とは言えない方向に)人生が変わってしまいました。
最初と最後、現実のシークエンスは当時普通だった白黒映像、魔法の世界は色とりどり世界が広がるカラーで、人々は驚愕しただろうことは容易に想像できます。それは、今どきの3Dで「すっげぇ~」とか言っているレベルでは無いと思います。
80年前にもかかわらず、今見ても見劣りしない特殊効果も見事ですし、鮮明な映像が残されていることも驚異的です。良質な作品は、どんなに古くてもその価値を減ずることが無いという典型的な一例です。