泥沼のベトナム戦争の中で、同時代のアメリカの若者たちを描いたこの映画は、やはりアメリカン・ニュー・シネマの代表作の一つとして記憶されてます。
麻薬で一儲けしたキャプテン・アメリカと呼ばれるワイアット(ピーター・フォンダ)とビリー(自ら監督も務めたデニス・ホッパー)の二人は、改造バイクでロサンジェルスから南に向かってあてのない自由な旅に出ます。
そもそも西部開拓時代の名保安官を連想させる、ワイアットというネーミングからして皮肉たっぷり。しかも別名がキャプテン・アメリカで、被るヘルメットには星条旗があしらわれているという念のいりよう。ビリーと言えば、同じく西部開拓時代のアウトロー、ビリー・ザ・キッドを思い出します。
ステッペン・ウルフのノリノリの「ワイルドで行こう(Born to Be Wild)」は、かれらのバイク行のテーマであり、曲としても大ヒットしたので馴染みがある人は多い。しかし、まだまだ昔ながらの雰囲気が強く残る南部の地域では、彼らのような若者は当然忌み嫌われ、宿は断られ野宿をするしかない。
たまたま通りかかった街でパレードに遭遇し一緒になって楽しむと、許可なしにパレードに参加したことで牢屋に入れられてしまいます。ここで、酔っ払いの弁護士ジョージ・ハンスン(ジャック・ニコルソン)と知り合い、三人でニュー・オリンズの謝肉祭(マルディ・グラ)に行くことになる。
しかし、南に下るほど彼らに対する風当たりは強くなり、野宿中に何者かに闇討ちにあったりするのです。マルディ・グラも何の感動も与えてもらえず、ワイアットとビリーは再びバイクのたびに出発しますが、一台のトラックがビリーに対して散弾銃を放つ。さらにワイアットにも発砲し、バイクもろとも吹っ飛んだキャプテン・アメリカは死んでしまうのでした。
これが、まさに60年代末のアメリカの過酷な現実だったのだろうと思います。束縛を嫌い自由と愛と麻薬に生きる若者と、古き良きアメリカを知る人々との対立の深刻さ。そこにはアメリカン・ドリームと呼ばれるような、楽観的な希望は介在する余地がありません。
体制に背を向けることは、少なくとも勝者にはならない。そういうあきらめにも似た心境が、若者たちの間に蔓延していたのかもしれません。しかし、その中で、明らかに今でも確実に残されている文化が育ったことも否定できない事実です。